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酒母とは?

2009.01.23

清酒の製造工程は非常に複雑で、初めての方にとってはなかなか理解できないであろう部分がたくさんあります。
そのひとつに「酒母」があります。
「酒母」とは何か、今回はそれを簡単にご説明します。

「酒母」とはひとことで言うと、もろみが健全に育つために、その前段階として造られる、多量の優良酵母と乳酸とを含む原液(語弊があるかもしれませんが)といえます。

他の酒類と異なる清酒の大きな特徴に「開放発酵」があります。
ワインやビール等は密閉されたタンクで仕込まれるのに対し、日本酒のタンクは開放された状態、つまり常に外気に触れた状態で仕込まれます。
という事は、清酒のもろみは育っている間、常に空気中の雑菌に汚染される危険に晒されている事を意味します。
その危険からもろみを守るために造られるのが「酒母」です。

原理としては、まず酒母中に多量の優良酵母を培養することで、空気中の雑菌よりも絶対的「数的優位」を保ち、さらには酒母中に多量の乳酸を含むことで、その乳酸酸性が雑菌の増殖を抑えます。
その「酒母」をもろみの仕込み初日に加える事により、もろみは薄まる事なく、つまりもろみ中の酵母は外敵から守られた状態で、健全なアルコール発酵を司ることができるようになるのです。

ちなみに乳酸は、麹の糖化力を弱めることなく、加えて他の有機酸に較べて雑菌を抑える力に優れています。
酒母中でその乳酸をどのようにして得るか、それが酒母、ひいては清酒そのものをふたつに大別します。

酒母中に自然界の乳酸菌を取り込んで繁殖させ、乳酸を生成する酒母を「生酛(きもと)系酒母」といいます。
これは古来から行われてきた方法で、多大な時間と労力とを必要とします。
詳しい説明は省きますが、よく耳にする「山廃酒母」もこの「生酛系酒母」に含まれます。

対して、最初の段階で乳酸を添加して乳酸を得る酒母を「速醸系酒母」といいます。
これは文字通り育成日数や労力も少なく、そして一定の品質が得られるもので、現在の清酒のほとんどはこの「速醸系酒母」です。

ただし、今の時代あえて手間隙掛けて、昔ながらの「生酛」に挑戦しようと果敢に挑んでいる蔵元がかなり増えています。

大賀ホール「春の音楽祭」

2009.01.17

ソニーの名誉会長・大賀典雄氏が私財を投じて軽井沢町に建造したコンサートホール、その名も「大賀ホール」、ゴールデンウイークに開催される毎年恒例の「春の音楽祭」、今年のラインナップは?と思いHPを覗いてみると、オーケストラの指揮が小林研一郎である事を発見し、「おっ」と思ったのでした。

ちなみにこの「春の音楽祭」、オーケストラをはじめとして、バイオリンやピアノのソロ、ウイーン少年合唱団によるコーラス、あるいは昨年は布施明で今年は渡辺貞夫などポップスやジャズ、連日様々なジャンルのコンサートが開催されます。
そうそう、大賀典雄氏ご本人もその中の1日で、オーケストラの指揮を振るのも恒例です。

そんな多彩なプログラムからオーケストラ編成によるコンサートはというと、2年前は金聖響、昨年は大友直人という名だたる指揮者が登場しているのですが、今年登場の小林研一郎、彼は私がまだ東京にいた頃、大好きで本当によく足を運んだ指揮者のひとりでした。
当時はまだお金がなくていつも一番安い席でしたが、それでも小林研一郎が生み出す演奏のダイナミズムと繊細さは、彼が演奏中に実際に吐き出す大きな息の音と共に、心の奥にいつも大きなインパクトと感動を残しました。

とりわけ思い出に残るのは、十八番であろうベルリオーズ「幻想交響曲」、チャイコフスキー「交響曲第5番」、マーラー「交響曲第2番<復活>」あたりでしょうか。
特に二十歳を過ぎた頃、東京文化会館とサントリーホールで連夜聴いたマーラーの「復活」はそれはそれは素晴らしく、不覚にも涙がこぼれそうになったのを覚えています。
余談ですが、小林研一郎は愛棋家としてもつとに有名で、その時は彼と交流のある将棋棋士の青野照市九段が私の隣に座っていて、恐る恐る声を掛けたのもいい思い出です。
また、今では随分とメジャーになったカール・オルフ「カルミナ・ブラーナ」を、まだまだ巷に知られていない頃から演奏していたのも小林研一郎ではなかったかと思います。

上田に帰ってきてからは久しく聴きに行っていない小林研一郎の名前を、思いも掛けず身近な会場で発見して、できればぜひ足を運んでみたいと思っています。
まだ曲目等は発表されていませんが、誰のどの曲を振るのでしょうか。

金紋錦100%を飲みました。

2009.01.11

自宅で晩酌する時は、できるだけいろいろな蔵元のお酒を飲んでみようと心掛けています。
今現在、食卓に並ぶのは全部で5銘柄。
長野県が2銘柄、富山県、静岡県、山口県が各1銘柄です。
これをずらりと食卓の脇に並べて、食事と一緒に飲み比べています。
ちなみに前回のブログで書いた広島のお酒は、3日間で空いてしまいました。

その中の長野県の銘柄で、今回久々に「金紋錦」100%のお酒を味わいました。
ちなみに「金紋錦」とは、山田錦とたかね錦とを交配させて作られた長野県の酒造好適米で、絶滅寸前であったのをいくつかの蔵元の熱意で復活するに至った、いまだに収穫量もわずかなお米です。

さて、飲んでみての感想ですが、ひと言、おいしい!です。
まず、生クリームを思わせるような柔らかな味わいが口いっぱいに広がって、それを口の中で転がしていると、その味わいが奥深くどんどん膨らんでいきます。
と同時に、きれいな「酸」を舌の上に感じて、そのバランスの良さに思わず唸ってしまいます。

そして驚いたのが料理との相性。
その日の食卓は、生産者直送の焼き海苔、ほうれん草のおひたし、そして猟をした方から直送して頂いた猪の鍋などを囲んでいたのですが、この「金紋錦」の原酒生酒はしっかりと個性を主張しながらもどの食材に対しても邪魔をしない。
本当にすいすいと食事とお酒とが進むのです。
肴をつまんでお酒を飲むと、両方の味わいがあいまっておいしさが増し、そしてお酒の酸で口の中がきれいに洗われて思わず次のひと口が進んでしまう、これが「相性が良い」という事なのかと感動することしきりです。
1時間後には飲み過ぎて、完全に虎になっておりました。
そしてこのお酒も、大切に飲みながらも結局3日で空になってしまいました。

もちろん「金紋錦」というお米も素晴らしいのですが、その個性をしっかりと酒質に反映させた造り手に対しても、改めて拍手!です。

心引き締まる贈り物

2009.01.04

年末に、敬愛する広島県の蔵元から新酒が一本届きました。
数年前にとあるきっかけでお知り合いになって以来、折あるごとに未熟な私を叱咤激励し続けて下さっている、常に酒造りに精進されている若き社長さんです。

一昨年の秋には、よかったら勉強に来て下さいとお誘いを受け広島県を訪問、その時はお仲間のこれまた若き情熱ある蔵元が集結されてすべてのお蔵を拝見させて頂き、そして最終日にはこの社長のお蔵を半日がかりで見学しながら、酒造りに関するたくさんの事を学ばせて頂きました。

今回お贈り頂いた新酒も、私も頑張っておるんじゃけん、和田も頑張れよ、という無言の励ましと受け取り、そのお気持ちに心引き締まり、そして涙が出る思いでした。

夜、頂いたそのお酒「特別純米八反錦生原酒」を厳かに開封し、まずは一杯・・・旨い!
思わず唸ってしまいました。
鼻腔をくすぐる程良い芳香、そして甘み・酸味・苦味・そして旨味、すべてのバランスがきれいに取れた、味のしっかりと乗ったとろけるような味わい、本当においしいのです。
こういうお酒が造りたいと素直に思いました。
感激のあまり繰り返し杯を空け、気が付いたらあっという間に半分以上を飲み干しておりました。

この感激をご本人にも伝えたいと夜遅いにも関わらず電話、残念ながら繋がりませんでしたが、今のこの気持ちを堰を切ったように留守電に吹き込んでおりました。
今の自分がたくさんの方に支えられている事を改めて実感しながら、これからも頑張ろうと思った次第です。

それでは2009年、今年もよろしくお願い申し上げます。

シャイン・ア・ライト

2008.12.27

仕事の合間を縫って、マーティン・スコセッシ監督「ザ・ローリング・ストーンズ シャイン・ア・ライト」を観ました。
観たくて観たくて仕方がなかった1本です。

マーティン・スコセッシ監督といえば、しばらく前に長野市の老舗の映画館で「1970年代のニューシネマ特集」という触れ込みで、一週間だけ、しかも夜1回のみ、突如「タクシードライバー」を上映していて、20年以上も前に何度も繰り返し観たあの頃の思い出に浸りながら、今回もやはり同じ感動に包まれたのでした。
映画館を出る際に、支配人の奥様とおぼしき方が見送って下さったので、「今になってこの作品をスクリーンで観ることができるとは思いませんでした。ありがとうございました」と思わずお礼を述べてしまいました。

閑話休題。
そのマーティン・スコセッシが監督する「シャイン・ア・ライト」、ザ・ローリング・ストーンズのライブを追ったドキュメント映画なのですが、観終わったあとストーンズのメンバーが数段魅力的で、そして百倍カッコよく見えてくる、極めて秀逸な1本でした。
ストーンズの魅力を自分なりに撮り切るには、何万人も入るスタジアムではなく小さなホールが望ましいと、あえて2000人弱のキャパしかないニューヨークのビーコンシアターを会場に選び、十数台のカメラを駆使して、スコセッシ監督はストーンズの魅力を2時間に渡って余す事なく撮り切っています。

冒頭、ライブ開始直前になっても曲目のリストが手元に届かず困惑するスタッフや監督を尻目に、あくまでもマイペースでオープニングを迎えようとするストーンズ。
そしてついにセットリストが監督に届き「1曲目は!?」と叫んだ瞬間に「ジャンピン・ジャック・フラッシュ」のあのイントロが奏でられるシーン、思わず背筋に電流が走ります。

そしてアンコールの「サティスファクション」が終わった瞬間、観ている我々観客もひとときの祭りから解放され、しかし観終ったあとの方が遥かに、観ている間よりもひときわ深い感動と余韻とに包まれている事に気が付くのです。
昔、淀川長治が、映画雑誌の質問コーナーで「私は映画を見たあとは、何時間もその映画のことばかり考えてしまい他のことが手につかないのですが、どうしたらいいでしょうか?」という質問に、「あなたはその数時間で大切な勉強をしているのです。その数時間こそが大事なのですよ」と答えていた事を思い出します。

ストーンズのライブ映画といえば、約25年前に公開されたハル・アシュビー監督「レッツ・スペンド・ザ・ナイト・トゥゲザー」が、あります。
私は当時、東京の丸の内ピカデリーで観たのですが、感激のあまり2回立て続けに観てしまった事を覚えています。
こちらの映画は何万人も収容する野外スタジアムと屋内アリーナでのライブを撮影しているのですが、今回スコセッシ監督はミック・ジャガーから出された「リオデジャネイロのビーチでのライブ」案を蹴ってあえてビーコンシアターに固執したのは、この映画の存在が頭にあったのかもしれません。

ちなみに、ストーンズが20年前に初来日を果たして以来、5回のツアーには毎度足を運んでいますが、やはり最初の「スティール・ホイールズ」ツアーで、場内が暗転してBGMで「コンティネンタル・ドリフト」が鳴り響く中、暗闇を割くように、キース・リチャーズのギターが「スタート・ミー・アップ」を奏でたあの一瞬の興奮は今でも忘れることができません。

今回の映画「シャイン・ア・ライト」は、そんなストーンズの魅力を余すことなく伝え、とことんまで酔わせてくれる傑作です。
メンバー全員が60歳を越えた今なお、これだけパワフルでセクシーなバンドに乾杯!

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