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ゆうぜんとしてほろ酔へば

2011.08.19

「ゆうぜんとして ほろ酔へば 雑草そよぐ」
種田山頭火の俳句です。

この句と共に愛くるしいふくろうが描かれた秋山巌の版画が、我が家に飾られています。
この版画は私が20代後半の頃、つまり今から20年ほど前に、北九州市のひらしま酒店店主、平嶋雄三郎さん(2008年ご逝去)を訪問した際、平嶋さんご本人にご手配頂いて手に入れたものです。

ひらしま酒店、そして平嶋雄三郎さんの名前を知る日本酒愛好家は多いかと思います。
全国の地酒専門店の先駆けとしてその名をとどろかせ、銘酒を求めて国内を行脚し、そして北九州の地から全国へ向けて日本酒の魅力を発信していました。

今から20年前、そんな平嶋さんに会いにいこうと誘って下さったのは、今も公私に渡ってお世話になっている長野市の「酒のかすが」店主の春日康男さん(当ブログ2007.11.27掲載)でした。

まだうだるような暑さが残る初秋、長野から在来線と新幹線を乗り継ぎ、小倉の駅に着いたのはその日の午後でした。
初めてお目に掛かった平嶋さんを前に、あわよくば取り引きにまで漕ぎ着けられればと思っていた私は、そんな自分の甘さを完膚なまでに叩きのめされることになります。

話をする中で、私自身の日本酒に対する取り組みから、持参したお酒の品質のみならずネーミングに至るまで、平嶋さんは厳しい口調で私の甘さを叱咤し、最後には「よく君みたいな者が私のところへ来たね」とまで言われました。
それは私がこの業界に入って初めて味わう大きな挫折でもありました。

でもそれは平嶋さんの愛情の裏返しでもありました。
その晩、ご自宅の客室に泊めて頂いた春日さんと私は、平嶋さんに連れられて北九州の繁華街を何軒もハシゴし、そこで平嶋さんが扱っている地酒を文字通り片っ端から飲みながら、たくさんの薫陶を受けたのでした。

ちなみに我々が泊めて頂いた平嶋さんの客室には、それまでに訪問された皆さんがひとことを綴った雑記帳が置かれていました。
ページをめくると、そこにはそれこそ全国津々浦々の蔵元から始まって、平嶋さんが資料を提供した「夏子の酒」の作者尾瀬あきらさんに至るまで、当時の私にとっては雲の上のような存在の方々が名を連ねていました。
尻込みする私を前に、君も何か書きなさいと言われ、震えながら記したひとことは今も忘れません(恥ずかしいので内緒ですが)。

帰りの新幹線で、その頃はまだあった食堂車で頼んだカレーが、この2日間で受けた衝撃のために喉を通らなかったのもいい思い出です。

その後も折に触れ、勇気を出してお電話を差し上げては厳しくも愛情溢れるお言葉を頂いた平嶋さんは、3年前突然ご逝去させました。
今でも自宅に飾られた「ゆうぜんとしてほろ酔えば・・・」の額を見るたびに、あの頃の平嶋さんのお姿と教えとを思い出すのです。

映画の話

2011.08.12

皆様、お盆休みはいかがお過ごしですか?
弊社は13日(土)まで営業です。
それまでフルスロットルで頑張ります。

今日はまた映画の話をいくつか。

子供たちと一緒に「ハリーポッターと死の秘宝 PART2」を観てきました。
とはいっても、私はこのシリーズは途中から観ていないので、冒頭からストーリーはチンプンカンプン。
あとでトンチンカンな質問を子供たちに浴びせて大笑いされたりもしました。

このシリーズで興味深かったのは何といってもスネイプ先生を演じたアラン・リックマン。
そう、「ダイ・ハード」で犯人のボス役を演じたあの人です。

「ダイ・ハード」を初めて観た時はあまりの面白さに狂喜乱舞したものですが、「ハリーポッター」の1作目を鑑賞中はよもやスネイブ先生があの犯人と同一人物だったとは思いも寄らず、観終わってから知ってひたすら感激。
今回も彼がするたびにスクリーンに釘付けになっていました。

で、結局スネイブ先生はいい人だったの?悪者だったの?と聞いて、またしても子供たちに笑われながら詳しい解説をしてもらうハメとなりました。

そういえば初代ダンブルドア校長のリチャード・ハリスも大好きな俳優でした。
でも2作目を取り終えて亡くなってしまい、とてもショックだったのを思い出します。

続いても映画の話題。

先日早朝にテレビを観ていたら、「NARUTO」の最新作にちなんで、作者の好きな刑務所映画ベストスリーを特集していました。
そこで勝手ながら、僕の好きな刑務所映画ベストスリーを挙げさせて頂きます。

・第3位 アルカトラズからの脱出

数あるクリント・イーストウッド主演作品の中でも、個人的に大好きな1本(監督は「ダーティハリー」のドン・シーゲル)。
脱出不可能といわれたアルカトラズ刑務所から脱走を企てる、実話をもとにした作品ですが、終始一貫したサスペンスタッチの緊張感溢れる映像とストーリー展開は何度観ても飽きません。

・第2位 パピヨン

小学生の時に観て心をわしづかみにされた作品です。
スティーブ・マックイーン、ダスティン・ホフマンという両巨頭の身を削るような演技に、観るたびに釘付けになった思い出が蘇ります。
スティーブ・マックイーンの叫びとともに流れる、ジェリー・ゴールドスミスの甘美なテーマソングが心に焼き付いて離れません。
ちなみにこのジェリー・ゴールドスミス、僕が大好きな映画音楽作曲家で、この人のサントラLPは今でもすべて大切に保管してあります。
この作品はつい最近「午前10時の映画祭」でリバイバル上映されましたが、観に行けなかったことを今でもとても後悔しています。

・第1位 ミッドナイト・エクスプレス

やはりこの1本でしょう。
中学生の時、何の予備知識も持たずに観に行ったこの作品、映画が終わった瞬間はあまりの衝撃でしばし席を立つ事ができませんでした。
しかもこれが実話とは。
ラストシーンで、実在の本人の写真がスクリーンに大映しになった瞬間は、すでに涙でぐしょぐしょのほおに新たな涙がとめどもなく流れてきたのを今でも忘れません。
「この刑務所を出るにはミッドナイトエクスプレスに乗るしかない。即ちそれは脱走すること」。
興奮と感動と衝撃とに包まれた、個人的には掛け値なしの傑作です。
ジョルジオ・モロダーのメインテーマを聴いただけで、あの感動がまた蘇ってきます。

「登水(とすい)」在庫状況

2011.08.06

8月5日現在の「登水(とすい)」在庫状況です。

・山田錦純米酒 /生酒 1.8L  完売
・   〃    /生酒 720ml 完売
・   〃    /生詰 1.8L 在庫あり
・   〃    /生詰 720ml 完売

・美山錦純米吟醸/生酒 1.8L 完売
・   〃    /生酒 720ml 完売
・   〃    /生詰 1.8L 在庫あり
・   〃    /生詰 720ml 在庫僅少


昨年度の反省をもとに今年は3倍の「生酒」をご用意したのですが、おかげさまを持ちまして「生酒」は全アイテム終了致しました。
お取扱い酒販店様では引き続き販売しておりますので、お問い合わせは弊社または当HP掲載の酒販店様にお願い致します。

なお上記の「生詰」とは、通常は2度行う「火入れ」を、搾った直後に1回のみ行ったものです。
ちなみに今年の「登水」の「生詰」は全アイテムとも4月上旬に「瓶燗火入れ」を致しました。
当初は火入れ直後に発売を予定していたのですが、利き酒してみるとまだまだ酒質が荒く、味が落ち着くまで急遽発売を延期しました。

そして満を辞して1ヶ月後の5月から発売を開始したのですが、その「生詰」がここに来て一気に花開いています。
火入れ後の熟成による舌を覆うような円やかな味わいは、「生酒」の鮮烈さとはまたひと味違った日本酒の楽しさを感じて頂けること請け合いです。

また「美山錦純米吟醸」の「生詰」の一部は、冷蔵貯蔵ではなくあえて常温貯蔵しており、それは9月に「ひやおろし」として発売する予定です。

同じタンクの日本酒でも、処理の仕方や四季折々によって味わいが変わる、それもまた日本酒の醍醐味のひとつです。

名店復活

2011.07.30

ファイル 234-1.jpg

先日、出張する日の明け方に一通のメールが届きました。
それは一軒のバーが営業を再開するという嬉しい知らせでした。

バー「WEST END」。
閉店時の顛末は2010年4月3日の当ブログに記してあります。

渋谷の東急百貨店本店のほぼ斜め前にあったこのクラシックバーは、私にバーの楽しみとカクテルのおいしさとを教えてくれた、それはそれは大切なお店のひとつでした。
若きバーテンダー兼オーナーの前田さんが見せる繊細な気遣いは、深夜のカウンターを挟んで、訪れたすべての客の心に安らぎを与えてくれました。
しかし昨年3月31日、突然の閉店・・・。
あれから前田さんと「WEST END」の復活をどれほど待ち望んだことか。

そして今回突然送られてきた営業再開のメール、その文末には「心よりご来店を楽しみにしています」とあります。
ええ、もちろん行きますとも。
しかもメールが届いたその日のうちに。
出張の日と重なったとは何と運のいいことか。

そしてその日の夜。
午後10時を回った頃、私は新生「WEST END」に向かったのでした。

新しいお店の場所は三軒茶屋です。
しかも住所から検索すると駅からすぐのところにある様子です。
国道246号線から左折して、飲食店がずらりと立ち並んだ通りをキョロキョロ見渡しながら歩いていると・・・ありました、「WEST END」の看板です(写真)。

はやる心を抑えて階段を4階までまで昇り切り、小さなドアを開けると、目に飛び込んできたのはまず前田さんの笑顔です。
変わっていません。
バーテンダーの衣装に身を包んだ前田さん、今もそのままです。

「早速来ちゃいました」と照れる私に、前田さんも少し驚きながらも「ようこそお越し下さいました」と笑顔で答えてくれ、そこには1年半のブランクを感じさせない、いつもながらの「WEST END」の空気が流れていました。

あいにくカウンターがいっぱいだったので窓際の2人掛けのテーブル席に腰を落ち着け、再開後の最初の一杯はもちろん「ホーセズネック」です。

前田さんにおいしさを教えて頂いたこのカクテル、ブランデーとジンジャエールをブレンドし、らせん状に切ったレモンの皮を添えただけのこのカクテルが、作り手によってどうしてこうも味わいが違うのか。
カクテルの奥深さを教えられた一杯です。
ちなみに私のスタンダードは前田さんから教わったスコッチ&ドライジンジャーです。

そうこうしているうちにもグループのお客様、あるいはひとりやふたり連れのお客様、入れ替わり立ち替わりみんな「WEST END」に集まってきます。

私はもう一杯、前田さんお任せの、通称(私が勝手に言っているだけですが)「前田スペシャル」を頼み、それをゆっくりと味わいました。
本当は「僕のイメージのカクテルを」とでも言ってみたかったのですが、グレー一色のカクテルなぞ作られては堪らないので我慢しました。

支払いを済ませお店をあとにする私を、階段を降り切るまで見送って下さる前田さんの姿を目に留めながら、心安らげる場所が再び一軒増えたことに喝采を叫んだ、そんな夜でした。


WEST END

東京都世田谷区三軒茶屋1-36-6
ラビ三軒茶屋4F

03-3795-1535

レナード・ニモイの思い出

2011.07.21

ピーター・フォークが亡くなりました。
私も小学生の頃から「刑事コロンボ」の大ファンで、しばらく前にはDVDも全話揃えてしまいました。

「刑事コロンボ」といえば、初期の作品「構想の死角」ではスティーブン・スピルバーグが監督するなど、スタッフやキャストにさり気なく有名人が名前を連ねることで有名です。
そんな意味で私にとっての「刑事コロンボ」の思い出の一作は、何といっても「溶ける糸」です。
それは犯人役の外科医に、あのレナード・ニモイが扮しているからです。

レナード・ニモイ、そう、「スタートレック」で耳のとがったバルカン人、ミスター・スポックを演じている俳優です。

ちなみに私は「スタートレック」も大好きで、「サウンド・オブ・ミュージック」のロバート・ワイズ監督による映画版「スタートレック」の第1作は、そのヒューマニズム溢れるラストシーンに、当時高校生だった私は、映画館の暗闇で涙が溢れて止まらなかった事を覚えています。

さてそのレナード・ニモイが、「刑事コロンボ」では「スタートレック」とは打って変わって、シリアスな外科医を演じました。
私はその一挙手一投足まで見逃すまいと、当時ビデオにまで撮って何度も見返しました。
完全犯罪を仕組んだはずのレナード・ニモイが、コロンボに徐々に追い詰められていき、最後はコロンボに屈するまでの数々の演技や表情は、「スタートレック」とはひと味もふた味も違ったレナード・ニモイの魅力が存分に発揮されていて、大いに興奮したものです。

そして大学生の時にもうひとつ忘れられない出来事がありました。
当時東京に住んでいた私は、その日たまたま新宿の紀伊国屋書店に出向いたのですが、何やら凄まじく混雑している一角があります。
好奇心いっぱいで覗いてみると、何とそこにはレナード・ニモイ本人がテーブルに座っているではありませんか!

それは映画版「スタートレックⅡ・カーンの逆襲」の宣伝のため来日したレナード・ニモイのサイン会の現場だったのです。

あまりの感動と衝撃とに呆然としていると、何と、書店のスタッフがあと数名だけサインを受け付けると叫んでいます。
殺到する希望者の群れに私も加わり、そこでジャンケン大会が繰り広げられ、日頃ジャンケンに弱い私がこれまた何と、勝ってしまったのです。

そしてレナード・ニモイ本人の前に立った時の興奮は今でもはっきりと覚えています。
「Nice to meet,you!」のひと言とともにサインしてもらった「スタートレック」の単行本は今も私の書庫に大切にしまわれています。

今回ピーター・フォークの訃報に触れて、そんな思い出が蘇ってきました。
コロンボが好物のチリを食べているシーンに憧れて、銀座で初めてチリを食べたのも学生時代の懐かしいワンシーンです。

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