記事一覧

立川流の名著

2013.12.12

先日、自宅で酒を飲みながらふと思い立ち、2冊の本を書架から引っ張り出して、一気に再読しました。

立川談春「赤めだか」。
立川談慶「大事なことはすべて立川談志に教わった」。

どちらも著者が立川談志に入門してから真打になるまでを描いた自伝です。
そしてどちらも笑いと涙、そして師匠へのあたたかさと愛情に満ちた名著です。

この2冊の本で改めて実感させられるのは、人生回り道というのは決して無駄ではないという事、そして長い人生の中で「報恩」という思いがどれだけ大切であるかという事です。
一見破天荒でありながら実は人一倍の繊細さを持ち合わせた立川談志と、そこにしがみつきもがきつつ、不器用ながら二つ目・真打へと上り詰めていく談春・談慶。
この2冊、私は読んでいて涙が止まらなくなりました。

私自身、酒に逃げたくなる夜というのは正直あります。
しかしこれらの本を読んでいると、回り道や不器用さに真正面から立ち向かい、そして克服していく過程が、やがては一流と呼ばれる道へと繋がる事を再確認させられ、励まされるのです。

そしてもうひとつ実感するのは、ああ、落語が聞きてえ・・・。

ボンタンアメ

2013.12.06

ファイル 381-1.jpgファイル 381-2.jpg

父の葬儀で大変お世話になった、父の大親友のご夫妻おふた組から、母と私の慰労を兼ねた夕食会にお招き頂きました。
父の思い出で花を咲かすこと数時間、楽しい食事はお開きとなりました。

その後、私はひとりで繁華街の一角のスナックへ向かいました。
初めて入るお店です。
「レベッカ」。
ここは父が他界する直前まで、いつもお仲間と共に2次会で腰を落ち着けては石原裕次郎を歌っていたお店でした。

父がお世話になったお礼をひとことママに言いたくて、お店のドアを開けると先客がおひとり。
私が名乗るとママはすぐに気が付いてくれ、私を店内に導いてくれました。

驚いたのは、先客もまた私の父が大変お世話になったご友人でした。
その方の隣に座らせて頂き、ここでも父の思い出話。
その間にママは、いつも父がそうしていたのでしょう、何も言わずに徳利の入った熱燗をカウンター越しに差し出してくれました。

「和田君はどこへ行っても本当に日本酒しか飲まなかったなあ」
同意するママ。
ここでも楽しく、そして懐かしい時間が流れていきます。

熱燗を1本飲み終え退席することをママに告げると、ママはボンタンアメを1箱手渡してくれました。
「ここではこれがサービスなの」

これで謎が解けました。
茶の間の棚の中にいつもボンタンアメが入っていた訳が・・・。

私はこの飴が大好きでいつも1個2個つまんでは舐めていたのですが、そうか、このお店でいつももらってきていたのですね。

何となくもう少し飲みたくて、続いて向かったのは馴染みのクラシックバー「Dejavu(デジャブ)」。
オーナーバーテンダーの藤極さんのお人柄、店内の雰囲気、そして何よりも出されるお酒、すべてが絶品で、妻ともども大ファンのバーです。

この日頼んだのは「ドライマティーニ」(写真下)と「マンハッタン」。

藤極さんのカクテルを私なりにひとことで表現すると、それは「優しさ」。
どの一品も柔らかさとあたたかさに溢れたオンリーワンの味わいです。

ちなみにこの日「ドライマティーニ」が出された瞬間、外で電話を掛けていて戻った私に、藤極さんが笑顔で真っ先に発したのは、「作り直しましょう」、そのひとことでした。
藤極さんのバーテンダーとしてのホスピタリティとプライドとが伝わってくる言葉です。

それを固辞し、この日も藤極スペシャルとも言えるスタンダードカクテルを味わいながら、今日1日を思い出し、更け行く夜を噛み締めたのでした。

「しぼりたて生原酒」のご案内

2013.11.30

毎年恒例の新酒の限定品「和田龍純米しぼりたて生原酒」は12月中旬過ぎに発売予定です。
詳細が決まり次第、改めてご案内申し上げます。
今しばらくお待ち下さい。

「ジャズと爆弾」

2013.11.24

所要で近所のショッピングモールを訪れた際、ついでに同じモール内にある書店を覗いてみました。
そして日本文学のコーナーで思わず目を引いたのが、村上龍「限りなく透明に近いブルー」のハードカバー版でした。

村上龍のデビュー作であり、若干24歳で芥川賞を受賞した本作、今は講談社文庫でしかお目に掛かれないと思っていましたが、こんな小さな書店の片隅にハードカバー版がひっそりと置かれている事に驚きました。
あるいは新装版として再発売されたのでしょうか。

私が本書を読んだのは高校生の時でした。
「限りなく透明に近いブルー」という魅惑的なタイトルとともに、その衝撃的な内容と文体の虜となり、「海の向こうで戦争が始まる」そして「コインロッカーベイビーズ」を立て続けに読破。

続いて村上龍の名前に惹かれて買ったのが、私の文学感を一変させたといっても良い一冊、中上健次との対談集「ジャズと爆弾」(旧題「俺たちの舟は、動かぬ霧の中を、纜(ともずな)を解いて、-。」)でした。

その知的好奇心溢れる内容に挽かれ、高校時代、それこそボロボロになるまで本書を読み耽りました。
そしてそれが、私が最も敬愛する作家のひとり、中上健次との出会いでもありました。

セリーヌ、ジャン・ジュネ、コクトー、マルキ・ド・サド、サルトル・・・本書の対談の中で登場する、ふたりが傾倒した作家は私もすべて読み込まねば、そう思って、書店で彼らの名前を見つけた時は片っ端から買い漁りました。
私が通った大学の図書館で「セリーヌ全集」全巻を発見した時は身震いするような感動に包まれたものでした。

本書の中で、村上龍がクライマックスの「限りなく透明に近いブルーだ。」、この一文を書くためだけに、どれだけの試行錯誤と執筆中での我慢を積み重ねたかを熱く語り、そして中上健次も「俺も『限りなく透明に近いブルー』な夜明けの空を見たことあるよ」と同意し、しかしそれは安寧な生き方をしていては見ることのできない光景なのだと同調するシーンでは、文学者、表現者としてのカッコよさにシビれまくったのを今でも覚えています。

その後ふたりは文学者としてははっきりと違った方向性を歩んでいきましたが、その原点としての対談集「ジャズと爆弾」は、今でも私にとって掛け値なしに珠玉の一冊です。
ハードカバー「限りなく透明に近いブルー」の背表紙を眺めながら、そんな事に思いを馳せた書店での夜でした。

ありがとうございました。

2013.11.16

父が急逝して早2週間が経ちました。

本当に突然の死でした。
悲しみや驚きに浸る間もなく、次から次へと父の旅立ちの準備に追われる日々が始まりました。

通夜や告別式の準備をしながらも仕事は待ってくれず、怒涛のような毎日を過ごして参りましたが、その間、多くの皆様が私たちを支えて下さいました。

人はこのような悲しみの真っ只中にある時、周囲の方々のご厚意がどれだけありがたいものかを、今回改めて身に染みて実感することができました。

告別式は予定をはるかに上回り3時間に及び、ご来訪頂いた皆様には多大なご迷惑をお掛け致した事と思います。
しかし、上田市内はもとより市外・県外からご参列頂いた大勢の皆様が、父のためにわざわざお時間を作って駆け付けて下さった、そのお気持ちが本当にありがたく、おひとりおひとりにもっともっとお礼を述べたい思いでいっぱいでした。

そして訃報を知った父や私の多くの友人が「何でもするから言ってくれ」と掛けてくれたその言葉がどれだけ励みになったか、計り知れません。
お言葉に甘えて電話をすると間髪を入れず出てくれる、その事からだけでも友人たちのあたたかな思いが感じ取れて、涙の出る思いでした。

今回父を見送って下さった皆様、そして我々家族を支えて下さった皆様、心から、本当に心から御礼申し上げます。

私ももう少ししたら元気になります。
そして父の意志を継いで、これまで以上に頑張る所存です。
ぜひこれからも変わらぬお付き合い、そしてお力添えをよろしくお願い致します。

ページ移動