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マティーニ・イズム

2010.12.01

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親しい方から本を一冊プレゼントされました。
銀座「MORI BAR」オーナー兼チーフバーテンダーの毛利隆雄さんが書かれた「マティーニ・イズム」。

「MORI BAR」は銀座屈指の名店であり、毛利さんの代名詞とも言えるマティーニをはじめ、珠玉の数々のカクテルを求めて、今宵もたくさんのお客様がお店を訪れます。

私も以前この本を頂いた方と一緒に、2度お店にお伺いした事があります。

一度目は10年以上前。
実はこの時は散々でした。

一歩店に足を踏み入れた瞬間から、憧れの空間と目の前の毛利さんの存在に緊張してしまい、連れに勧められるままにガブガブ。
それまで何も食べていなかったこともあって、気が付いたら一気に酔いが回っており、あろうことかトイレに閉じこもったままの状態に。
結局連れに抱えられるようにして店をあとにしたのですが、自分の失態にしばらくは立ち直れませんでした。

それから数年後、やはり同じ方と再度「MORI BAR」のドアをくぐりました。
もう同じ轍は踏みません。
この時は終始リラックスした中で、カクテルのおいしさと、加えて毛利さんのお人柄の素晴らしさとに心打たれながら、大変楽しいひとときを過ごすことができました。

そして今回プレゼントで頂いた「マティーニ・イズム」。
毛利さんのバーテンダーとしての生きざまや、カクテルに賭ける思いや愛情が綴られていて、あっという間に読了してしまいました。

大変興味深かった内容をひとつ。

ある時毛利さんは、お客様から「今日のマティーニの味はおかしい」と指摘されます。

すぐさま原因を究明していくと、ベースとなる同じ銘柄のジンでも、1本1本の味わいにバラつきがある事に初めて気がつきます。
雑味が多く納得の行かないビンが実に多いのです。
片っ端からテイスティングしていくと、1ケース12本でまともに使えるのは1本という事態まで起こるようになりました。

日本の輸入代理店で納得の行く回答がもらえなかった毛利さんは、すぐさまスコットランドの製造元へ飛び立ちます。

訪れたメーカーで分かったのは、ジンのブレンダーはテイスティングを一切せずに、鼻で嗅ぐノージングだけで品質を決めているという事実。
それを知り、毛利さんは愕然とします。
そのブレンダーにいくらティスティングをお願いしても、彼は香りだけを嗅いで「パーフェクト」と叫び、ついにジンを口に運ぼうとはしませんでした。

以来毛利さんは、マティーニに使うジンをはじめとしてどの蒸留酒も開封する時は必ずテイスティングをし、自身の舌に合格したものだけを使用しているそうです。

毛利さんが1本1本、封を開ける際に味を確かめるのは有名な話ですが、その影にそんな理由があったとは初めて知りました。

それにしても、本書に掲載されているカクテルの写真を見ていると、すぐにでも実物を飲みたくなること請け合いです。
「MORI BAR」、久々に行きたいなあ・・・。

三遊亭鬼丸、上田凱旋

2010.11.25

このブログにもたびたび登場する上田出身の新真打、三遊亭鬼丸(きん歌改め)。
東京都内で50日にわたる真打披露興行を終え、このたび地元上田市のホールで凱旋公演を行いました。

http://www1.ocn.ne.jp/~kinka/profile.html

ちなみに東京での襲名披露興行には、私も出張に合わせて2度足を運びました。

1回目は上野鈴本演芸場で、この日が披露初日でした。
ネタは「錦の袈裟」。

初日という事もあってか、鬼丸は自分自身の立ち位置に少々戸惑っている様子で、何となく不完全燃焼に終わってしまった感のある高座でした。
余談ですが、私の左隣に落語通で知られる堀井憲一郎氏がメモを片手に座っていて、彼が鬼丸をどう評したのかも気になりました。

2回目の訪問はそれから1ヵ月後の池袋演芸場で、この日のネタは「御神酒(おみき)徳利」。
これは見事でした。
鬼丸の成長がしっかりと窺えました。
快活かつ朗々と噺す鬼丸のうしろに、確かに「御神酒徳利」の風景や人物が見えました。

そして今回の上田公演。
約500席の場内はびっしり満員で、鬼丸に寄せる期待の大きさが分かります。
入口では鬼丸のご両親や奥様がお客様をお出迎えしています。

そして開演。
師匠の円歌や兄弟子たちの高座が爆笑に包まれ、そして襲名披露の口上も無事終わり、いよいよ大トリで鬼丸の登場です。
ネタは「猿後家」。

裕福な商家の後家(未亡人)さんのたったひとつの悩み、それは顔が猿そっくりな事で、それゆえに「猿」に関する言葉は一切禁句。
このたびもうっかり植木屋が「サルスベリ」と言ってしまったばかりに出入り禁止となり、当の後家さんはショックで寝込む始末。
さあ、そこへ現れたのが雄弁で知られた源さん、番頭さんから頼まれて彼女の機嫌を直すべく乗り込むが・・・。

鬼丸迫真の、素晴らしい高座でした!
古典落語の面白さが鬼丸の語り口で更に増幅され、落語という芸の醍醐味を堪能致しました。

このあと埼玉でのもうひと公演をもって、長いようで短かった鬼丸の真打披露公演も一段落です。

さあ鬼丸師匠、いよいよこれからがスタートです。
これから先、鬼丸ならではの芸風をさらに確立するために、そしてひとりでも多くのファンを獲得するために、突っ走って下さい!

へぎそば初体験

2010.11.18

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公私ともどもお世話になっている方と新潟県の魚沼へ出掛けました。
用事が済んで時刻は正午過ぎ。
せっかくなので昼食はこの地方の名物「へぎそば」にしようと話し合って決めました。

実は私は「へぎそば」初体験。
「へぎそば」はつなぎに小麦粉でなく布海苔(ふのり)を使うこと、そしてそばを小さな束にして盛り付けること、その程度の知識しかありません。
そもそも「へぎ」とは何ぞや。
そばを盛り付ける木の器を「へぎ」というそうです。

さて、地元の方お薦めのお店へ着くと、さすがに行列が出来ています。
待つこと30分、ようやく順番が回ってきてテーブルにつきメニューに目を通したところ・・・。

<へぎそば>
・一人前
・二人前
・三人前
・四人前
・五人前
・十個盛り
・五個盛り

と書いてあります。
さて、どれを選んでいいのやら・・・。

そもそも私が住む信州上田は、ただでさえ蕎麦の量が多くて有名なところ。
ちなみに上田のとある繁盛店は、普通盛りが500g、中盛りが700g、大盛りが1kg!あります。

お店のお姉さんに聞いてみました。
「一人前で足りますか?」
「一人前は7個盛りになりますのでちょっと足りないかもしれません。「十個盛り」にしてみてはいかがでしょうか?あるいはまず一人前ご注文頂いて、足りなければ「五個盛り」を追加されるとか」

なるほど、そうやって選ぶんですね。

それではとお勧めに従って「へぎそば十個盛り」と「天ぷら盛り合わせ」を頼んで待つことしばし、注文の品がやって参りました。

それにしても器の大きいこと。
4人掛けのテーブルに2人で座ったのですが、蕎麦の器と天ぷらを乗せるともういっぱいです。

そして肝心の蕎麦はというと、写真のようにきれいに10個の小さな束にまとまって器に盛り付けられています。
そして驚いたのが薬味。
わさびとネギに加えてカラシが乗っています。
聞けばへぎそばの薬味はもともとカラシが本流で、わさびはあとから広まったとの事でした。

さっそくひと口。
信州蕎麦とはまったくの別物です。

一番の特徴は滑らかな舌触りと喉ごし。
とにかくするすると喉を通ります。
その感触は水の如し。
これがへぎそばの醍醐味でしょうか。

途中、薬味のカラシをつけて食べてみましたが、これはこれでオツな味わいです。
個人的には本わさびのふくよかな香りの方が好みですが、カラシをつけるのがへぎそばの食文化と思えば十分に堪能できました。

つるつる、するすると蕎麦が喉を通るうちに、あっという間に完食。
天ぷらも付けたので「十個盛り」はちょっと多かった感じです。
その証拠にこの日は夕方まで腹持ちして、全然お腹が空きませんでした。

この日はお酒は飲みませんでしたが、本来でしたら蕎麦は日本酒の最高の肴と思っている私。
次回はぜひ魚沼の地酒とともにへぎそばを味わいたい、そんな思いです。

サービスの本質とは?

2010.11.11

ホテルに泊まるのが好きです。
例えば出張の際は、エリアや利用時間に応じて何軒かのお気に入りのホテルを使い分けています。

今日はそんなお気に入りのホテルの、ちょっと残念だった話をします。

東京都中央区にあるRホテル。
館内の快適な施設やおいしい食事はもちろんですが、何よりも私はこのホテルのホスピタリティ溢れるサービスが大好きで、いつも利用できる機会を伺っています。

このホテルのサービスに関して思い起こすと、こんな事もありました。

夜遅くチェックインした時の事。
何気なく冷蔵庫を見ると、前の客が記入した飲み物のチェックシートがそのまま残っています。
すぐにフロントに電話をして事情を説明すると即座にお詫びがあり、しばらくして部屋のベルがなりました。
ドアを開けると、初老のスタッフがお皿いっぱいに乗ったフルーツのワゴンと共に立っています。

感激したのはそのワゴンフルーツではなく、立っていたのがその頃メディアでもたびたび登場していたホテルのN支配人だったからです。
しかもネームプレートにはフルネームだけ書かれていて「支配人」とは記されていません。
その瞬間、即座にこのホテルのサービスの「精神」を感じ取ったものでした。

さて、話は飛んで、今年の8月に宿泊した時の事です。

早朝にレストランへ足を運び、ここの大好きなバイキングに舌鼓を打っていると、レストランのマネージャーがスタッフを叱り飛ばしている声が聞こえてきます。
それも一度や二度ではなく、それこそコーヒーを飲み終わるまでずっとです。
しかも口調が「××しろ!」とか「何、××してるんだ!」とか聞くに絶えないもの。
およそRホテルの空間とは思えません。
そっとフロアの女性を呼び止め、マネージャーの名前を聞いて、あとで正式に苦情を申し伝えました。
ささやかな出来事とはいえ、これが最初のつまづきでした。

次に宿泊したのは10月の上旬。
この時は悲惨でした。

まず、到着してエントランスからチェックインカウンターに向かうまで、数多くのスタッフがいるのに誰一人として声を掛けてくれない、こんな事は初めてです。

いざチェックインカウンターの前に立っても、フロントの若い男性は声を掛けないどころかこちらに顔も向けない。
私も意地になって黙ったままそこにしばし立っていましたが、まるで自分が透明人間になったかのようです。

怒りがふつふつと沸いてきた頃、私の後方にあるコンシュルジュデスクの女性が私の存在に気が付いてくれ、ようやくフロントへ取り次いでくれたのですが、若いフロント係は一連の対応に苦情を言っても暖簾に腕押し、まるでロボットのようです。
手続きを終えて鍵を受け取りエレベーターに乗るまで、コンシュルジュの女性がお詫びかたがたアテンドしてくれたのが唯一の救いでした。

そして更に驚くことに、それから翌朝チェックアウトするまで、すれ違う多くのスタッフからはひと言の挨拶もなし。
それこそ何往復もロビーラウンジやフロントの前を通ったのですが、いつもでしたらスタッフとすれ違うたびに「こんばんは!」とか「おはようございます!」とか「いってらっしゃいませ!」とか掛けてもらう気持ちのよい挨拶が今回はひと言もありません。
目が合っても素通りです。
私も、いつもならばそれに対して必ず元気な挨拶を返すのですが、今回に限って言えば私はこれまた完全な透明人間状態です。

さすがにあきれて、部屋に備え付けのアンケートに率直な感想を記入し、チェックアウトの際も、このたびの宿泊にどれだけ失望したかを申し伝えました。
正直言って、もうこのホテルを使うのはこれっきりとも思いながらホテルを去ろうとしたその瞬間、ひとりのスタッフから声を掛けられました。

差し出された名刺を見ると、そこには「フロントレセプションマネージャー」の文字。
要はフロントの責任者です。
彼曰く、実はチェックインの時、他のお客様のお世話をしながら私への対応の一部始終を見ていた、そしてそれがどれだけ不誠実な対応であったか恥ずかしい思いでいっぱいだ、ついては深くお詫びしたい、そんな内容を述べられました。

このひと言でどれだけ救われたか、私は彼に再訪を約束し、次回は楽しみにしていますと伝えてホテルをあとにしました。
ちなみに後日、支配人名で丁重なお詫びの手紙も届きました。

が次回、その期待は裏切られました。

マネージャーとの約束を守ろうと、そしてどれだけホテルの対応が変わったかを楽しみにしながら、今月の上旬に再度Rホテルを予約しました。

このクラスのホテルであれば当然このたびの一連の出来事は私の履歴に残っているでしょうし、あえて間を置かず再訪した私の思いをマネージャーはじめスタッフはしっかり汲んでもらえるものと思っていました。

しかし私は甘かった。
到着からチェックインまでひと言も挨拶がないのは前回と同じ。
そして運の悪いことにチェックインを担当したのは前回のロボット君でした。

私が今回期待したのは、チェックインの際たったひと言「前回は失礼しました」という、そのお詫びの言葉でした。
それさえあれば満足でした。
「今回は挽回しますのでごゆっくりお過ごし下さい」、そんな言葉が掛けられることを楽しみにしていました。

しかしフロントの彼は、今回も能面のような顔でひと通りの手続きを済ませ、あっさりと私を客室へ送り出しました。
聞けば例のマネージャーは今日は休みを取っているとの事。

本音を言えば客室のグレードアップも少しは期待していました。
もし私が逆の立場だったらそうします。
しかし与えられたのはオーダー通りのシングルルーム。

さらに、客室に入ってすぐに頼んだ夕刊は、次の予定のため30分後に出発するまで結局届けられず。
しかも電話をしたら忘れ去られている始末・・・。
そしてこの日も結局、ロビーを右往左往しているスタッフからは挨拶の言葉ひとつ掛けられる事はありませんでした。

翌日は館内で朝食を取る気持ちも萎え、外での朝食を終えて、それでもと思ってフロントで問い合わせると、件のマネージャーは出社していました。

早速彼を呼び出し、しかし椅子ひとつ勧められずフロント前で立ったまま、私は今回の残念な思いをそのマネージャーにぶつけました。

私はこのホテルのホスピタリティ溢れるサービスが大好きだったのに、それは一体どこへ行ってしまったのか?
クレームを述べた客がすぐに戻ってきたのに、なぜ「前回は申し訳ありませんでした」のひと言がいえないのか?

このホテルが大好きだからこそ、今回このような思いの丈をぶつけた気持ちをマネージャーは汲んでくれたでしょうか。

部屋に入るとすぐにマネージャーから電話がありました。
「チェックアウト時間を延長させて頂きますのでごゆっくりお寛ぎ下さい」
この思いを最初から見せてくれていれば、今回の滞在は随分と違った気分になっていたはずです。

私は帰ってから、性懲りもなくまた次回の予約を入れました。
ネットのコメント欄にはマネージャー宛てのメッセージも残しました。
予約を入れてから一週間、しかし彼からの返信はまだ届いていません。

感涙の赤ワイン

2010.11.05

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親しい友人と久々に東京で会食しようという事になりました。
店選びを任され、迷うことなく、敬愛する城悦男氏がオーナーシェフを努める「フレンチレストラン ヴァンサン(VINCENT)」を予約致しました。

http://www.vincent-la-jo.com/

この友人と「ヴァンサン」で食事をするのは3度目。
彼もこのお店をいたく気に入ってくれ、テーマだけを伝えてあとの細かいお皿は城シェフにお任せ、というのがいつものスタイルです。
この日のリクエストは「ジビエ」。
いよいよ本格的なジビエの時期となり、シェフがどんな食材をどのように調理して出してくれるのか心が躍ります。

さて当日。
友人と共に席に着き、まずはワインを選ぼうとしたところ、新しく入ったメートルデトルの豊田さんが「今日はシェフが既にワインを用意しております」とひと言。
それが写真にもある「エシュゾー1995ヴィエイユ・ヴィーニュ ドメーヌ モンジャール・ミニュレ」!!
ブルゴーニュの極上の造り手による極上の1本です。

「ジビエ」がテーマなのでブルゴーニュの赤を選ぼうとは思っていたのですが、このような素晴らしい心震える1本をシェフ自らセレクトして頂いたことに、ただただ感激の思いです。

果たしてグラスに注がれたそのワインは、最初の1杯からブルゴーニュのトップクラスならではの風格を漂わせ、しかも時間とともに刻々と変化する香りと味わいは我々を心身ともに陶然と酔わせてくれました。

途中、料理の手を休めては城シェフがテーブルまで足を運んでくれ、料理・音楽・芸術、さまざまな話題で花が咲き、これもまたグランメゾンならではの贅沢な時間の使い方に酔いしれました。

ちなみにメインのジビエ料理は「鴨」。
野生の鴨とフォワグラがミルフィーユ調にサンドされ、その上には旬の松茸が惜しげもなく乗り、「ソースの城」ならではの極上の赤ワインソースが掛かっています。
付け合せはひとつひとつ丁寧に剥かれた栗のタルト。
まさにクラシックフレンチの王道を行く素晴らしいひと皿でした。

ひとたびメディア等で有名になると厨房に入らなくなるシェフも少なくない中、城悦男シェフは今日も自ら陣頭指揮を取りひと皿ひと皿心を込めて腕を振るい、そして合間にはテーブルを回ってお客様との交流を大切にされています。
そんな城シェフの人間的な魅力も含めて、今回も「ヴァンサン」の料理と空間とを、友人とともに存分に堪能したひとときでした。

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