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「ジャズと爆弾」

2020.07.11

前回、中上健次を取り上げました。

高校時代、中上健次と村上龍の対談集「ジャズと爆弾」(文庫化される前のタイトルは「俺たちの船は、動かぬ霧の中を、纜を解いて」)を、それこそボロボロになるまで読み込みました。

ふたりの会話で登場するジャン・ジュネ、セリーヌ、マルキ・ド・サドをはじめとする数々の作家の名前に私も影響を受け、授業をさぼって読み耽りました。

進学した大学では、図書館の片隅で埃をかぶっているセリーヌ全集を偶然見付けて、興奮冷めやらぬまま連日館内に釘付けにもなりました。

対談の中で、村上龍のデビュー作のラストに登場する「限りなく透明に近いブルー」な空を、中上が「俺も見たことがある」と語るくだりは全身に鳥肌が立つ思いで、「徹夜したあと、夜明け前のほんの一瞬だけ見える」そのブルーを自分も見てみたいと思いました。

村上龍が初メガホンを取った同作「限りなく透明に近いブルー」は場末の名画座で観ましたが、大学生の僕をしても駄作と分かるひどい代物でした。

そして続いて村上龍が監督した「だいじょうぶマイ・フレンド」(日比谷スカラ座という大箱で公開されて驚きました)は、これまた大駄作・・・ではあったのですが、主演デビューを飾った広田レオナの初々しさと、彼女が歌う主題歌のポップな明るさに救われた、摩訶不思議なSFファンタジーでした。
でも何といってもこの作品の一番の驚きは、あのピーター・フォンダが出演していたことに尽きるでしょう。

一方の中上健次。
柳町光男(大好きです)が監督した「十九歳の地図」は、新聞配達をしながら自分の書いた地図をもとに脅迫電話を掛け続ける少年の鬱屈した青春と生きざまを描いた傑作でした。

そして同じく柳町光男が監督し中上健次自身が脚本を書いた「火まつり」は、熊野を舞台に、中上健次が常にテーマとした「血と地」への回帰を真っ向から表現した快作で、何度も新宿の映画館へ通いました。

しばらく前には中上健次中期の傑作「千年の愉楽」が、何と若松孝二監督で映画化されると知って驚愕し、すぐに長野市の映画館に飛び込んだものでした。

村上龍の作品で私が個人的に一番好きな「コインロッカーベイビーズ」。
高校時代に一気読みした時は、何と最後の10ページがバラバラに綴じられたいわゆる「乱丁」で、続きが読みたい一心で上田図書館へ自転車を走られた事を思い出します。
この作品が映画化されたらどんなに凄いだろうと思いを馳せたのですが、実現される事はありませんでした。

中上健次は、芥川賞をはじめとして数々の文学賞を受賞した初期の連作集「岬」や「枯木灘」を映画化はさせないと、生前に明言しています。
たとえ映画化されたとしても、この重厚かつ極めて複雑な人間関係を映像で描き切るのは、監督の手腕が問われることになるでしょう。

今回も思いつくままに書きました。
中上健次はもちろんですが、村上龍も私に大きな影響を与えた、どちらも私にとって欠かせない小説家です。

書架の一角から

2020.07.04

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私の書架の中上健次コーナーです。

3回前のブログに掲載した、中上健次を相当読み込んでいる「べじた坊」の石垣さんに送るために撮った1枚です。

上段の本の前にあるのは、中上の生地であり幾多の小説の舞台にもなった紀伊半島新宮市で毎年2月に開催される「火まつり」において男衆が手に持つ、松明(たいまつ)のミニチュアです。
実際に「火まつり」で使われる本物の松明もあります。
どちらも妻と新宮を訪ねた時に、新宮市観光協会の方から贈られたものです。

「殊類と成る」ふたたび

2020.06.26

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12月に投稿した以下のブログ。

http://www.wadaryu.com/blog/archives/701.html

この時取り上げた、女優やまおきあやの舞台「殊類と成る」が、このたびDVD化されました。

どうしても行けなかった私は早速本人に連絡をして注文。
すぐに届いたDVDを、包装を解くのももどかしく会社の事務所のノートパソコンで再生し、やまおきあやが躍動するその舞台に大いに心打たれたのでした。

そしてもうひとつ感動したのが彼女直筆の手紙の封筒。
写真の左ですが、分かりますか。

そう、「和田龍」と書いてあるのです。

実はこれ、やまおきあやが「肌画」と呼ぶ、彼女が即興で描くボディペイントなのです。

普段は差し出された腕や手の甲に彼女がすいすいと筆を運び、文字通り「肌画」が描かれていくのですが、最近は「肌」に留まらず、例えば「酒縁女優」の呼び名に相応しくお酒のラベルデザインも手掛けるようになりました。

そんな彼女が、私が知り合うきっかけにもなった「官能小説『花鳥籠』朗読会」を、7年ぶりに吉祥寺の「居酒屋Kon」で6月28日に開催するとの事。
興味がある方はアクセスしてみてくださいね。
妖艶さに虜になること請け合いです。

「AKIRA」光臨

2020.06.17

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新型コロナによる規制が少しずつ解け、映画館での上映も再開され始めた中、「AKIRA」を22年ぶりにスクリーンで観るために、平日の最終回に近くのTOHOシネマズ上田まで足を運びました。

人気(ひとけ)の少ないガランとした静かなロビー。
チケットを買って館内に入ろうとすると、モギリ(古い?)の女性はフェイス・シールドにビニール手袋の完全装備。
差し出したチケットを受け取ることもせず一瞥だけすると、言葉もなく目の前のデジタル温度計で熱を測れと促します。
温度計がうまく作動しないでいると、ようやく小さな声で「少し後ろに下がってください」と促し、「36.2」の数字を確認すると黙って自分のブースに戻ります。

この状況下で接触を避けようとする気持ちはよく分かります。
とてもよく分かるのですが、感情の交流が途絶えた別世界に来たような違和感は拭えません。
これからどんどんこのような無機質なシーンが増えるのでしょうか。
そんな複雑な思いを抱きながら、座席に腰を落ち着けました。
ちなみに観客は私を含めて5人でした。

そしてそして、「AKIRA」は凄かった!
22年という時間を感じさせない圧倒的な映像美とストーリー展開。
そして「4K」によるビジュアルと音の驚くべき迫力。
まさに大友節全開の傑作でした。

それにしても1988年に公開されたこの映画。
2019年のネオ東京を舞台に、2020年に開催予定の東京オリンピックが開催不可能になるという、あまりに現在を予知し抜いた舞台設定にも鳥肌が立ちますよね。

私はDVDも持っていますが、「4K」版を映画館で観てよかったとつくづく思いました。
そして興奮した勢いで「ブルーレイ 4Kリマスターセット」まで注文してしまいました。

写真は2012年に開催された「大友克洋 GENGA展」(これも凄かった!)に展示されていた、映画に登場する「金田バイク」のレプリカです。

続きを話しに。

2020.06.13

昨夜久々に訪れた、長野市の銘酒居酒屋「べじた坊」。

日本酒担当の石垣さんとは様々なジャンルで話が合い、カウンター越しに尽きることなく語り合う毎回です。

今回のテーマは「中上健次」。

私が敬愛する小説家、中上健次を石垣さんがお店のブログで何日にもわたって取り上げていて、私が思わず反応してメッセしたのが昨日の午前中のこと。

それから何回かSNS越しに中身の濃いやり取りをし合ったのち、「続きを話しにきました」とお店を訪問したのが半日後の夕方でした。

カウンターに座るやいなや、中上健次のこと、さらにはそこから派生するさまざまな小説や音楽の話題で石垣さんと花が咲きます。
それにしても石垣さんの博識ぶりといったら。

そしてその間にお任せで次々にグラスに注がれてくる日本酒は、石垣さんセレクトの、どれも珠玉といっていい一杯です。

さらには、お料理を担当されている若林さんの心のこもった酒肴の数々が並び、会話とお酒に彩(いろどり)を添えます。

思えば、このお店のカウンターで知り合った多くのお客様と、今もご縁が繋がっていたりもしています。

「べじた坊」。
酒と料理と人の魅力に酔うことができる素敵な空間です。
石垣さん、若林さん、またお伺いしますね。

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