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励みの1本

2009.12.05

敬愛する、広島県の株式会社天宝一の村上社長から本年度の新酒が贈られて参りました。
「天宝一 八反錦純米生原酒」がその1本です。

村上社長は、私と同年代の熱き五代目です。
数年前に初めて知り合った時から、何かに付けまだまだ未熟な私を叱咤激励して下さり、殊にお酒の製造に関しては、自分の酒造りに賭ける「思い」も含めて私に伝授して下さっています。

ある年はわざわざ広島県までお招き頂き、それこそマンツーマンで1日掛けてご自身の蔵をご案内頂いて、製造技術を惜しげもなく教えて頂きました。
また、村上社長を慕って集まる若き蔵元の皆様も本当に魅力ある情熱家ばかりで、この方々との出会いが私の大きな財産のひとつとなっています。
今回送って頂いたお酒も、新酒が搾れたこの時期に合わせて「わしも頑張っとるけ、和田はどうじゃ?」という暖かな無言のメッセージです。

さて、早速その晩開けた「天宝一」の新酒、ひと口飲むと・・・昨年よりも更に力強さが増して、まさに村上節全開の1本です。
聞けば今年は若い新人ふたりが蔵に入っているのだとか、確実にパワーアップしています。

まず口に含むと、青竹を割ったようなフレッシュな香りがいっぱいに広がり、そのあと柔らかく厚みのある旨みと、そしてシャープな酸とがバランスよく絡んで口の中で踊ります。
酸がきれいに効いているのでキレよく飲み飽きせず、つい次の一杯に進んでしまいます。

この日の夕食のメインはカキフライだったのですが、これまたこのお酒に合う事といったら。
カキの磯を思わせる複雑な味わい、そしてフライの油、それぞれがこの新酒の力強さに見事にマッチして、気が付いたらあっという間に半分以上がカラになっておりました。
1日で飲み切ってしまうのはもったいないとようやく自制が働き、今日はここまででお預け。
また今晩、今度は少し温度を変えて、そして違う肴に合わせて味わってみたいと思います。

村上さん、今年もありがとうございます。
村上さんの心意気、確かに受け取りました。
私もぜひ皆様にご満足頂けるような新酒を出したいと思います。
差し当たっては年末予定の「純米しぼりたて生原酒」です。

隣の客

2009.11.29

昨日も朝から予定が相次ぎそのまま夜まで、何とかひと息つけたのが午後9時過ぎでした。

初冬の寒さが肌を刺す上田の街を歩きながら、ちょっぴり燗酒で温まろうと、繁華街の片隅にある「海鮮処・祭」(2008/10/25の当ブログにも登場)の暖簾をくぐりました。
このお店は弊社のお酒も扱って頂いておりますが、それ以上に料理のおいしさとご主人はじめスタッフの皆さんの暖かさに心打たれて、折に触れ通う一軒です。

入口から中を伺うとカウンターからお座敷まで満席の盛況。
それでもカウンターの一番端にようやく席を見つけ、腰を落ち着けて、早速日本海直送の鯵や鮪そしてご主人お薦めのハタハタの焼き物を肴に盃を傾ける事しばし。
カウンター席でお客様が入れ替わり、初老の男性がひとり入ってきて座られました。
どうやらこちらの男性もお店の顔なじみのようです。
ご主人や女将と話をしているのを何とはなしに聞いておりました。

しばらくするとその男性、ビールに替えて日本酒を注文したのですが、どうやらいつもは弊社の「和田龍」を飲んで下さっているらしく、メニューの中のその他のお酒と「和田龍」とがどう違うかをご主人に熱心に聞かれ始めました。
そして最初の一杯は「八海山」を頼まれたのですが、そのあともその男性の口から「和田龍」の名前が何度も出てきて、そのたびにこちらは嬉しさと照れくささと、そしてもし批判されたらどうしようという緊張とでドキドキのしっ放し。
お店のご主人はその都度こちらを横目で見てにやにやされているし。

やがてその男性、「このお店には和田龍の社長は来ないのかい?」とご主人に聞かれて、もはやこれまで(笑)。
「いや、実は隣にいるこちらが専務で・・・」
というわけで、それからは打ち解けて、その方と語り合いながら楽しいお酒を飲みました。

こういった場面、時折あるんですよね。
私が飲んでいる隣で弊社のお酒の話題が出てくることが。
でもそんな時は、和田龍のお酒を飲んで下さっていてありがとうございますという感謝の気持ちと、反面、もし少しでも悪く言われたらどうしようという緊張の思いとで、いつもドキドキする毎回です。
大抵は今回と同じく、最後は正体がバレて楽しくお酒を酌み交わすのですけど。
それがご縁で親しくさせて頂いている方も少なからずいらっしゃいます。
まあこれも酒造業という仕事の醍醐味のひとつですね。

さて、予告です。
いよいよ今期の仕込みも始まりました。
第一弾として、12月下旬に恒例の「純米しぼりたて生原酒」を発売致します。
ここ2年ほどは年内に搾りがどうしても間に合わず、年を越しての発売となってしまい、毎年ご購入下さるお客様にご迷惑をお掛けして参りましたが、今年は何とか12月中に間に合う予定でおります。
楽しみにお待ち下さい。

長野駅前のイタリアン

2009.11.21

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昨日は夕方から所要で長野市へ出掛け、一段落したのが午後9時半過ぎでした。
早速帰ろうと急いで長野駅に向かったものの、新幹線も在来線も5分前に出たばかり。
新幹線は今のが最終だし、在来線はこのあと30分弱待たなければ来ないしで、上田に戻ってから取ろうと思っていた遅い夕食を長野駅前で取ってしまおうと思い立ち、ぶらぶら歩き始めました。

さて、どこかいいお店はないかと考えて、ふと一軒のレストランが頭に閃きました。
実は僕が大好きな上田にあるイタリアンレストランで料理の修業をしていた若いシェフが晴れて10月から独立し、長野駅前でお店をオープンしているはずなのです。

大体の場所は聞いていたので、行き当たりばったりでお店を目指したところ、長野駅からあるいてわずか1~2分のところにそれらしい風情の目新しいレストランが目に入りました。
入口横の小さな窓からこっそりと中を覗くと、懐かしのシェフの顔が目に飛び込んできます。
嬉しくなって思わず中に飛び込むとシェフも気が付いて下さり、ひとしきりの挨拶のあと、カウンターの片隅へと通されました。

店名は「オステリア・ガット」。
シェフと、もうひとり若きオーナーとのふたりで切り盛りする、素材と季節感とを大切にするイタリアン・レストランです。
ちなみにこの日は最終電車まであまり時間がないことを伝えて、前菜の盛り合わせとプリモピアットのパスタをお任せで注文。
どちらも予想に違わぬ素晴らしい出来栄えでした。

特にパスタのひと皿として出されたのは、「ピチ」と呼ばれる手打ちのパスタで、うどんのような太さとつるつるとしてコシのある食感は、今まで食べてきたパスタとはまるで別もの。
そこに牛肉を煮込んだミートソース風のラグーソースとが見事に絡んで、お皿は瞬く間に空になりました。

このふた皿に、ビールとお薦めのイタリアの白ワインと赤ワインとを各一杯ずつ合わせて小一時間、心地よい空間と暖かなサービスとともに、思いも寄らぬ素敵なひとときを過ごすことが出来ました。
今度機会があればぜひゆっくり、セコンドピアットの魚や肉そしてデザートまでゆっくりと楽しんでみたいと思います。

場所は長野駅前のロータリーを渡って、ホテルサンルート横の細い道に入り、ホテルの裏側を曲がったすぐのところです。
夜は25:00まで営業しているので使い勝手もいいですよ。

和田龍に合う一品

2009.11.15

お酒と料理との相性についてよく聞かれます。

そもそも「料理に合う」というのはどういうことでしょうか?
人によっては、「相性」なんてその人の感性によって違うもので、それをわざわざ押し付けるのは傲慢だという意見をおっしゃる方もいらっしゃいます。
それはそれでその通りだと思いますし、正しいご意見だと思います。

ただ「料理との相性」とは、お酒と料理とをより美味しく召し上がって頂くための、もっといえば1+1=3になるような味わいの広がりのひとつの情報です。
試して頂いたら、いつも以上にお酒や料理が進んだ、あるいはどちらもがいつも以上においしく感じられた、そんな驚きや発見を感じられて頂けたら本当に嬉しく思います。

料理に合う例を具体的に挙げてみて、と聞かれる事もあります。
そんな時に真っ先に挙げるのは、フライドチキン×コーラorウーロン茶です。
誰もが慣れ親しんでいるフライドチキン、ここにコーラを合わせると、油とタンサンという強いもの同士が調和して双方がよりおいしく感じられますし、他方コーラとは対極にあるウーロン茶を合わせると今度はチキンの油をきれいに洗い流してくれて、これまた次のひと口に繋がります。
難しく考えなくても、このように相性の良いものは身近にたくさんあるのです。

さて、それでは弊社のお酒と相性が良い料理をひとつ挙げよ、と言われたらそれは何か?
もちろん弊社のお酒自体が何種類もありますし、その中で料理を「ひとつ」ということ自体少し無理があるかもしれませんが、でもあえて掲げさせて頂きます。

それは「蕎麦」です。

和田龍酒造の酒は「蕎麦」に合います。
蕎麦そのものの相性はもちろんの事、つゆと絡んだ時の相性、あるいは天ぷらや野菜やお肉といった蕎麦に乗るタネとの相性、それぞれと合わせた時に醸し出す味わいがハーモニーとなって口の中に踊ります。

蕎麦王国の信州、上田にもたくさんのお蕎麦屋さんがあり、私自身連日のように蕎麦に慣れ親しんでいます。
そんな中、自分のお酒とお蕎麦とを合わせると「ああ、おいしいなあ」としみじみ思います。
もし機会があったら皆様もぜひお試し頂ければと思います。

マリアカラス

2009.11.07

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タイトルの「マリアカラス」、今回はソプラノ歌手のマリア・カラスではなく料理のマリア・カラスのお話です。

先日、東京六本木「レストランヴァンサン(VINCENT)」で、とある記念のパーティがありました。
この「レストランヴァンサン」のオーナーシェフ城悦男氏は、私にフレンチの世界の素晴らしさを知らしめて下さった方であり、いつもお目にかかるたびにその人間的な魅力に引き込まれています。

さてこの日のパーティ、主催者に促されて乾杯の音頭を取った城シェフの挨拶が素敵でした。
「今のこの時代、料理にしても何にしても、ともすれば時代の最先端を行こうとして、そのスタイルは刻々と変化しています。しかしそんな中、私は何と言われようと、自分が学んだ古き良き時代のクラシック・フレンチのスタイルを変える事なく、これからも頑張っていきたいと思います。乾杯!」

料理もその言葉通り、ソースと食材とがしっかりと融合したクラシック・フレンチの王道を行くものでした。
私がこのお店に行く時は必ず予約する2品もしっかりと登場しました。
アミューズ・前菜に引き続いて登場したその1品目は、まず個人的に日本で一番おいしいと思っているコンソメスープ。
この日コンソメは「牡蠣のコンソメ ロワイヤル風」でした。

何日も手間隙かけて出来上がる黄金色に澄み切ったコンソメ、そのカップの下にぶつ切りの牡蠣を浮かべた洋風茶碗蒸しが沈んでいます。
運ばれてきた瞬間からテーブル一帯にコンソメの芳香が漂い、ひと口運ぶと、ブイヨンや野菜の味わいが渾然一体となったその清澄な味わいに陶然とします。
そしてしばらくするとブイヨンから出るコラーゲンが唇をペタペタと覆い、これが城シェフのコンソメである事を実感するのです。

そしてもう1品が、魚料理に続いて出された城シェフのスペシャリテ「子羊のパイ包み・マリアカラス風」です(写真)。
これは城シェフがパリの「マキシム・ド・パリ」で修行していた時に、実際にマリア・カラスがリクエストして好んで食べた料理です。
また城さんが帰国後、銀座「レカン」でシェフを務めていた時に、現在「シェ・イノ」の井上旭シェフとともに、押しも押されぬひと皿にした事でも有名です。

写真でお分かりの通り、子羊の真ん中にフォワグラを詰め、周りにパイを巻いて火を通すのですが、この火加減が絶妙!
しかもそこにかかった黒トリュフの入ったペリグールソースがこれまた素晴らしくて、城シェフの別名「ソースの城」の面目躍如です。

ミディアムレアに焼けた子羊はジューシーで肉汁あふれ、パイのサクサクとした食感、そして香り高く芳醇なソースの味わいとあいまって陶然、最後はソースの一滴までパンで掬い上げて食べてしまい、あとに残るのは洗ったかのごとくピカピカの皿のみです。

その後もフロマージュ、デザート、プティフール(小菓子)と続き、午後7時前から始まったパーティは時計を見ると午前零時。
心地よい余韻を残しながら、本当にあっという間のひとときはお開きを迎えたのでした。

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