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「おくりびと」

2009.02.23

巷で話題になっている映画「おくりびと」、私もアカデミー賞受賞の一ヶ月ほど前に観て参りました。
傑作と思いました。
観ている間の2時間、涙が止まりませんでした。
泣き腫らした顔を見せるに忍びなく、映画が見終わったあと一番最後に席を立ったほどです。

私がこの映画を観たいと思ったのは、何より監督が滝田洋二郎だったから。
この監督の作品が大好きなのです。
しかし、これだけ重厚な題材をこうも見事に描き切るとは。
感服です。

滝田洋二郎の名前を初めて知ったのは私が学生時代、彼がまだ「にっかつロマンポルノ」で作品を撮っていた時でした。
当時の「にっかつロマンポルノ」は、のちにその名を馳せることになる数々の名監督が、低予算の限られた枠の中で、その実力を遺憾なく発揮して暴れまくっていた時代でした。
森田芳光、周防正行、根岸吉太郎、神代辰巳、村上透、相米慎二、中原俊・・・挙げればきりがありません。
「ロマンポルノ」という、ともすれば偏見の目で見られがちなジャンルの中で、「キネマ旬報」の邦画年間ベスト10に選ばれる良質な作品が多数輩出されました。
そんな中、滝田洋二郎という面白い監督がいるという情報が、いくつかの専門誌で見られるようになりました。
当時、暇さえあれば映画館に通っていた身でしたので、好奇心もあって初めて観た滝田作品、タイトルを記すのは控えますが、ロマンポルノという枠を越えたハチャメチャぶりに抱腹絶倒したのを覚えています。

その後滝田は、内田裕也が芸能レポーターに扮する「コミック雑誌なんていらない」で一般映画デビュー。
数々のヒット作品を量産し、今回の「おくりびと」を撮るに至りました。

さて、その「おくりびと」。
山崎務と本木雅弘の納棺師の師弟ふたりが死者を弔うオープニングがまず素晴らしい。
全編を通して「生と死への敬意と尊厳」が余すところなく描き出されているという映画評は随所で書かれているので、ここではあえて記しません。
私が思ったのは、とにかく端役に至るまですべての登場人物がしっかりと描かれていて、そしてその誰もが魅力的であったこと。

特にまず広末涼子。
本当に素敵でした。
彼女自身の数々のゴシップもあって、これまでは個人的にあまり良い感情はもっていなかったのですが、今回は冒頭から彼女の魅力に引き込まれました。
ラスト近くで「夫の仕事は納棺師です」と自分の気持ちを確認するように語るシーンは、ともすれば鼻に付いてしまいがちな台詞であったにもかかわらず、等身大の説得力を持って心に入り込んできました。

そしてもうひとり、山田辰夫。
既にベテランの域に入った彼ですが、私の中では山田辰夫といえばあの石井聰互監督「狂い咲きサンダーロード」で強烈なデビューを飾った、暴走族役のジン。
あのイメージがまだ脳裏に焼き付いています。
そんな山田辰夫が、妻に先立たれた夫役として、家を訪れた山崎務と本木雅弘に対して侮蔑の言葉を浴びせ、しかし死化粧を施された妻の美しさに号泣し、家を去るふたりに感謝の思いを語るシーンは、本木自身が「納棺師」という仕事の素晴らしさと魅力とに気が付いていく重要なシーンとして、観る者の心まで揺さ振るのです。

「おくりびと」、人間としての行き方を改めて考えさせられる佳作です。