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清酒製造の原理 入門編

2010.12.18

冬も本番となり、いよいよ仕込みの最盛期を迎えています。
当社の「純米しぼりたて生原酒」も年内の発売を目指して、もろみが順調に育っているところです。

そんな中、今日は日本酒ができる原理を簡単に説明したいと思います。
今人気の池上彰さんの「そこからですか?」(週刊文春)ではありませんが、初めての方にも理解できるようにお話し致します。

そもそも日本酒に限らず、お酒のアルコールはどうやってできるのでしょうか?

これは分かり易く言うと、「糖分(ブドウ糖)」を、微生物である「酵母」が食べて、「アルコール」と「炭酸ガス」というウンチに変える、そう考えて下さい。
これを「アルコール発酵」と呼びます。

<アルコール発酵とは>

糖分(ブドウ糖)→ アルコール/炭酸ガス
        ↑
        酵母


さて、続けます。
日本酒の原料はお米です。
ではお米の中に、アルコール発酵に必要な「糖分」は存在しているでしょうか?

お米をかじっても甘味がない事からも分かるように、お米そのものには糖分はありません。
つまり、糖分がない状態のままではアルコール発酵は不可能という事になります。

それではどうやってお米から糖分を発生させるのでしょう?
ここで大切な役割を担うのが「麹菌」です。

お米の主要な成分として「デンプン」があります。
このデンプン、実はブドウ糖がいくつも鎖状に繋がった物質です。

すなわち、ブドウ糖がいくつも連なったデンプンの、その鎖を断ち切ってしまえば、一個一個のブドウ糖に分解されるのです。
この「デンプンをブドウ糖に分解する」のが、麹菌が生成する「糖化酵素」と呼ばれる物質です。

このように、お米の主成分であるデンプンをブドウ糖に分解する働きを「糖化」といいます。

<糖化とは>

米中のデンプン → 糖分(ブドウ糖)に分解
        ↑
  麹菌が生成する糖化酵素「アミラーゼ」


以上でお分かりの通り、日本酒は「糖化 → アルコール発酵」という二段階を踏むことにより、原料のお米からアルコールの生成が可能になるのです。

もう少し掘り下げます。

日本酒の仕込み中、タンクには以下のものが投入されています。

・麹米
・掛米(ただ蒸しただけのお米)
・水
・酵母

同じタンクに麹米(=麹)と酵母が両方入っていますので、「糖化」と「アルコール発酵」が同時に進行します。
これを「並行複発酵」といい、日本酒製造の大きな特徴のひとつとなっています。

日本酒の「並行覆発酵」は、同じタンクの中でまず「糖化」が進むため、初期の頃は甘さが先行します。

「糖化」によりブドウ糖が多量に生成されると、今度は「アルコール発酵」がどんどん進行するので甘さが減少し、それに比例してアルコール度数が上がり始めます。

そして目指す甘辛度(=日本酒度)やアルコール度数、さらには酸度やアミノ酸度等、もろもろの要素を総合的に判断した上で、最終的に搾る時期を決めるのです。

街角のお店、雑記

2010.12.11

今日のお昼に「すき家」の牛丼を食べましたが、あまりの安さに改めて驚きました。
だって、牛丼の並盛りにサラダと味噌汁を付けて、しかもキャンペーン中だったので30円安くて、お会計は350円!
これでしっかり利益が出ているのですから大したものです。

そういえば数日前、出張先での事です。
あれこれあって一段落したのが午後11時。
早速一杯飲みたくて、いつものように居酒屋を探して辺りを徘徊したのですがもうどこも閉まっていて、目に入ったのは「吉野家」の看板のみ。
仕方なく空腹を満たすために入店したところ、メニューの下にちっちゃく「日本酒」の文字を発見して早速注文。
コールスローサラダと牛キムチクッパを肴に(凄い取り合わせですけど)出てきた1合びんのお酒を飲みました。

驚いたのは、その日本酒がどこの物とも分からない安酒ではなくて、ちゃんとした新潟の本醸造生貯蔵酒だったこと。
へぇー、吉野家でもこういうところにこだわる時代になったんだと、妙に感動して味わいました。
ただグラスが臭かったのには閉口しましたけど。
そしてお勘定は、クッパ280円、コールスロー90円、お酒330円で、しめて700円!
こちらも安い。
これはこれで何だか新鮮な驚きでした。

思えば最近は、チェーンの居酒屋でもそれなりの日本酒の品揃えをしているお店が増えましたよね。
この前もお客様から、上田駅近くの全国チェーンに弊社の銘柄が置いてあったと聞いて驚きました。
納品している酒販店さんが勧めて下さったのでしょうね。
お酒の間口が広がる嬉しさも含めて感激しました。

逆に数年前の悲しくて笑える話。
蔵元数名と軽井沢に行った時のことです。
昼食を取ろうと、目に付いたラーメン屋に入りました。
せっかくだからラーメンを食べる前に一杯飲もうということになってつまみと一緒に頼んだお酒、これがはっきり言っておいしくない。
おばちゃんに「このお酒、何?」と聞いたところ、カウンターの上にどんっ!と紙パックの三増酒(多量の醸造アルコール、加えて糖類やアミノ酸を添加したお酒)を出してきました。

余計なお世話と思いつつ、「おばちゃん、軽井沢の人間なら、せめて地元のお酒を使ったほうがいいよ」とアドバイスすると「あたしゃ夏だけこのお店を出している横浜の人間だよ」という、洒落ているのか小憎らしいのか分からない答えが返ってきました。
おまけにお会計は、確かにお酒をそこそこ飲んだとはいえ、昼間からひとり5千円!でした。
いったい一杯いくらのお酒だったんだ?
ふざけんな。

もうひとつ。
普段外回りの最中、時間がない時に利用する立ち食いそば屋。
安いしお店のおばちゃんたちの愛想も良く、慌ただしい中にもひと息つけて、いつもおいしくお蕎麦を頂いています。
でもお願いです。
お店を出るときに大声で「毎度!!」は止めてもらえませんか。
恥ずかしいです。

マティーニ・イズム

2010.12.01

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親しい方から本を一冊プレゼントされました。
銀座「MORI BAR」オーナー兼チーフバーテンダーの毛利隆雄さんが書かれた「マティーニ・イズム」。

「MORI BAR」は銀座屈指の名店であり、毛利さんの代名詞とも言えるマティーニをはじめ、珠玉の数々のカクテルを求めて、今宵もたくさんのお客様がお店を訪れます。

私も以前この本を頂いた方と一緒に、2度お店にお伺いした事があります。

一度目は10年以上前。
実はこの時は散々でした。

一歩店に足を踏み入れた瞬間から、憧れの空間と目の前の毛利さんの存在に緊張してしまい、連れに勧められるままにガブガブ。
それまで何も食べていなかったこともあって、気が付いたら一気に酔いが回っており、あろうことかトイレに閉じこもったままの状態に。
結局連れに抱えられるようにして店をあとにしたのですが、自分の失態にしばらくは立ち直れませんでした。

それから数年後、やはり同じ方と再度「MORI BAR」のドアをくぐりました。
もう同じ轍は踏みません。
この時は終始リラックスした中で、カクテルのおいしさと、加えて毛利さんのお人柄の素晴らしさとに心打たれながら、大変楽しいひとときを過ごすことができました。

そして今回プレゼントで頂いた「マティーニ・イズム」。
毛利さんのバーテンダーとしての生きざまや、カクテルに賭ける思いや愛情が綴られていて、あっという間に読了してしまいました。

大変興味深かった内容をひとつ。

ある時毛利さんは、お客様から「今日のマティーニの味はおかしい」と指摘されます。

すぐさま原因を究明していくと、ベースとなる同じ銘柄のジンでも、1本1本の味わいにバラつきがある事に初めて気がつきます。
雑味が多く納得の行かないビンが実に多いのです。
片っ端からテイスティングしていくと、1ケース12本でまともに使えるのは1本という事態まで起こるようになりました。

日本の輸入代理店で納得の行く回答がもらえなかった毛利さんは、すぐさまスコットランドの製造元へ飛び立ちます。

訪れたメーカーで分かったのは、ジンのブレンダーはテイスティングを一切せずに、鼻で嗅ぐノージングだけで品質を決めているという事実。
それを知り、毛利さんは愕然とします。
そのブレンダーにいくらティスティングをお願いしても、彼は香りだけを嗅いで「パーフェクト」と叫び、ついにジンを口に運ぼうとはしませんでした。

以来毛利さんは、マティーニに使うジンをはじめとしてどの蒸留酒も開封する時は必ずテイスティングをし、自身の舌に合格したものだけを使用しているそうです。

毛利さんが1本1本、封を開ける際に味を確かめるのは有名な話ですが、その影にそんな理由があったとは初めて知りました。

それにしても、本書に掲載されているカクテルの写真を見ていると、すぐにでも実物を飲みたくなること請け合いです。
「MORI BAR」、久々に行きたいなあ・・・。

感涙の赤ワイン

2010.11.05

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親しい友人と久々に東京で会食しようという事になりました。
店選びを任され、迷うことなく、敬愛する城悦男氏がオーナーシェフを努める「フレンチレストラン ヴァンサン(VINCENT)」を予約致しました。

http://www.vincent-la-jo.com/

この友人と「ヴァンサン」で食事をするのは3度目。
彼もこのお店をいたく気に入ってくれ、テーマだけを伝えてあとの細かいお皿は城シェフにお任せ、というのがいつものスタイルです。
この日のリクエストは「ジビエ」。
いよいよ本格的なジビエの時期となり、シェフがどんな食材をどのように調理して出してくれるのか心が躍ります。

さて当日。
友人と共に席に着き、まずはワインを選ぼうとしたところ、新しく入ったメートルデトルの豊田さんが「今日はシェフが既にワインを用意しております」とひと言。
それが写真にもある「エシュゾー1995ヴィエイユ・ヴィーニュ ドメーヌ モンジャール・ミニュレ」!!
ブルゴーニュの極上の造り手による極上の1本です。

「ジビエ」がテーマなのでブルゴーニュの赤を選ぼうとは思っていたのですが、このような素晴らしい心震える1本をシェフ自らセレクトして頂いたことに、ただただ感激の思いです。

果たしてグラスに注がれたそのワインは、最初の1杯からブルゴーニュのトップクラスならではの風格を漂わせ、しかも時間とともに刻々と変化する香りと味わいは我々を心身ともに陶然と酔わせてくれました。

途中、料理の手を休めては城シェフがテーブルまで足を運んでくれ、料理・音楽・芸術、さまざまな話題で花が咲き、これもまたグランメゾンならではの贅沢な時間の使い方に酔いしれました。

ちなみにメインのジビエ料理は「鴨」。
野生の鴨とフォワグラがミルフィーユ調にサンドされ、その上には旬の松茸が惜しげもなく乗り、「ソースの城」ならではの極上の赤ワインソースが掛かっています。
付け合せはひとつひとつ丁寧に剥かれた栗のタルト。
まさにクラシックフレンチの王道を行く素晴らしいひと皿でした。

ひとたびメディア等で有名になると厨房に入らなくなるシェフも少なくない中、城悦男シェフは今日も自ら陣頭指揮を取りひと皿ひと皿心を込めて腕を振るい、そして合間にはテーブルを回ってお客様との交流を大切にされています。
そんな城シェフの人間的な魅力も含めて、今回も「ヴァンサン」の料理と空間とを、友人とともに存分に堪能したひとときでした。

「ひやおろし」一考

2010.09.30

今が旬の「ひやおろし」、せっかくの旬なので他の蔵元の「ひやおろし」も機会あるごとに飲んでいます。

先日も出張先の居酒屋さんで店長おすすめの「ひやおろし」を5種類、じっくりと楽しませて頂きました。
また自宅にはこれから封を開ける「ひやおろし」が4本、静かに眠っています(あっという間に空になること必至です)。

さて、その「ひやおろし」、実は酒税法上の厳密な定義はありません。

ただ通常「ひやおろし」とは、冬の厳寒期に搾った新酒をひと夏越してじっくり寝かせ、円熟した味わいとなった秋に出荷するお酒を指します。
加えて、一般的には「純米酒」で、搾った直後のみ「火入れ」を行い、出荷時の「火入れ」は行わない、いわゆる「生詰め」(「生酒」とは違います)の状態で出荷されます。

さて、その「ひやおろし」、お酒そのものが良いことはもちろんですが、それと同じくらい気を使うのが熟成の度合いです。
フレッシュでもいけないし、かといって古酒のように熟成し過ぎてもいけない。
秋に向けて、いかに目標とする熟成具合に持っていけるかというのがひとつの勝負なのです。

各蔵とも常温で寝かせたり、あるいは温度調節をしっかりして冷蔵庫で寝かせたり、それぞれ考えを巡らせます。

ちなみに私は4℃の冷蔵庫で貯蔵しました。
8月に取り出して試飲してみたところ、若干フレッシュ感は残っていたものの、円やかで程よい熟成感に仕上がっていて、ほっと胸を撫で下ろした事を思い出します。

他の蔵元の「ひやおろし」も、それぞれが目指した円熟さに仕上がっていて、それがまた「ひやおろし」の楽しみ方のひとつだと改めて納得した次第です。

そんな「ひやおろし」の飲み方ですが、弊社の「ひやおろし」に限っていえば「常温」もしくは「軽く冷やして(13℃位)」という温度帯をお勧めしています。
例えば「秋口の爽やかな風が通る、朝夕の自宅の玄関や廊下に置いた状態」というのもベストです。
「ぬる燗」もいいですね。
ただ冷やしすぎると甘みや旨みが引き締まりすぎて、「ひやおろし」本来の味わいがちょっぴりしぼんでしまいます。

さあ、いよいよ味覚の秋到来です。
わが街信州上田では、名物の松茸小屋が一斉にオープンし、多くのお客様で賑わっています。
皆様もぜひ日本酒の秋の風物詩「ひやおろし」と共に、秋の食材を存分にお楽しみ下さい。

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