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並行複発酵

2008.02.03

前々回、日本酒の発酵形式に触れました。
おさらいです。
日本酒はひとつのタンクの中で「糖化」と「発酵」が同時に並行して進む「並行複発酵」という発酵形式を取っており、これは世界の酒類でも大変珍しいものであるというお話をしました。
これが日本酒醸造の大きな特徴のひとつであるとも言えます。
それでは、その他の酒類はどうでしょうか。

その前にひとつ基本に触れます。
日本酒のように、アルコール発酵によって出来上がったものをそのまま(あるいは漉して)飲む酒類を「醸造酒」と呼びます。
代表的なものに、日本酒・ビール・ワインがあります。
その醸造酒をさらに蒸留したものを「蒸留酒」と呼びます。
焼酎・ウイスキー・ブランデー・ラム・ジン・ウォッカなどがそれに当たります。
さらに、その蒸留酒に香料や糖などを加えたものを「混成酒」と呼びます。
リキュールなどがそうです。

さて、それでは日本酒・ビール・ワインなどの醸造酒の発酵形式について説明します。
日本酒は前回も書きました通り、

米のデンプン→<糖化>→ブドウ糖→<発酵>→アルコール・炭酸ガス

といった化学変化で出来上がり、この「糖化」と「発酵」が同一タンクで並行して進行します。
これが「並行複発酵」です。
それではワインはどうかというと、原料のブドウそのものに既に糖分が存在しているため「糖化」が必要ありません。
ですので、

ブドウの糖分→<発酵>→アルコール・炭酸ガス

このひとつの化学変化のみでワインが出来上がります。
この発酵形式を「単発酵」と呼びます。
続いてビールです。
ビールの原料は麦芽ですので、糖が存在しないため、日本酒と同じく「糖化」によってブドウ糖を作る必要があります。
ただし、ビールの場合は最初に「糖化」が行なわれ、それが完了したあと改めて「発酵」が行なわれるという、「糖化」と「発酵」の過程が完全に分かれています。
この発酵形式を「単行複発酵」と呼びます。
以上のように、同じ「醸造酒」でも、発酵形式ははっきり異なります。

ちなみに、日本酒製造の場合は、ひとつのタンク内で同時に進行しているこの「糖化」と「発酵」をいかにバランスよく進ませ、そして最終的に目指す酒質に持っていくかが大変重要なのです。

麹の役割

2008.01.26

前々回、「アルコール発酵」の原理について記しました。
復習すると、「アルコール発酵」とは、「糖分(ブドウ糖)が酵母によってアルコールと炭酸ガスに分解されること」です。
例えは下品ですが、酵母がブドウ糖を食べて、アルコールと炭酸ガスというウンチをする、そう言えば分かり易いでしょうか?

では、その「糖分(ブドウ糖)」は、原料のお米の一体どこから発生するのでしょう?
例えばワインならば原料がブドウですので、ブドウそのものの中に糖分がぎっしり詰まっています。
でも、言うまでもなく、お米そのものは決して甘くありません。
お米の成分のほとんどはデンプンで、その他に割合はぐっと減ってタンパク質、脂肪と続きます。
そのどこから糖分は生まれるのでしょう?

では解答です。
お米の主成分であるデンプンが、「糖化」という化学変化によってブドウ糖に分解されるのです。
そして、その役割を担っているのが「麹」です。
「麹」とは、カビの一種である麹菌をお米に生やしたものです。
そして、その麹菌が分泌する物資(「酵素」と呼びます)のいくつかが、デンプンをブドウ糖へと分解していくのです。

もう少し説明します。
デンプンとは、ブドウ糖が鎖状に多数つながってできている、難しく言うと高分子化合物です。
麹菌が分泌する「アミラーゼ」という酵素は、そのデンプンの鎖を次々に切断していき、最終的にブドウ糖に分解してしまうのです。

まとめです。
日本酒の原料であるお米がアルコールとなるまでには、以下のような化学変化が起きています。

デンプン→<糖化>→ブドウ糖→<発酵>→アルコール

日本酒の仕込みタンクの中では、麹菌が作り出した酵素と微生物の酵母の両方が存在しており、すなわち「糖化」と「発酵」が同一タンクの中で同時に行なわれています。
これを「並行複発酵」と呼びますが、この発酵形式は世界的にも珍しい、日本酒製造の大きな特徴のひとつです。
この辺の話はまた後日。

日本酒度とは?

2008.01.19

お酒の甘い辛いを判断する時、まずは日本酒度を見ますよね。
では、日本酒度とはそもそも何でしょう?

日本酒度とは、水に対するお酒の比重を表わす単位です。
清酒中の糖分が多くなるほど比重は大きくなり(日本酒度は-の値となる)、逆に糖分が少なくなれば比重も小さくなります(日本酒度は+の値となる)。
糖分の多い少ないによって数値が決まってくるので、日本酒度は甘辛の判断となるというわけです。

ここで大切なのは「アルコール発酵」の原理です。
アルコール発酵とは「糖分(ブドウ糖)が酵母によってアルコールと炭酸ガスに分解される」ことをいいます。
すなわち、アルコール発酵が進むほど糖分は減って、その分アルコールが生成されます。
そしてアルコールは水よりも比重が小さいです。
よって例えば、糖分が少なくなる→アルコールが多くなる→水との比重は小さくなる→日本酒度は+の数値で大きくなる、という関係となるのです。
具体的には、15℃に温度を設定した清酒に「日本酒度計」という専用の浮ひょうを浮かべ、その数値を測定します。

ここで気を付けなければならないのは、「日本酒度」とは上記の通り、あくまでも糖度に関する値であり、同じ日本酒度の清酒でも、そこに「酸」あるいは旨み成分の「アミノ酸」といった要素が入ってくると、そのバランスによって味わいはがらりと変わってくるということです。
最終的に大切なのは、やはり自分の舌による官能判断ということですね。

当蔵もようやく。

2008.01.16

ファイル 34-1.jpg

先日の続き。

というわけで、当蔵も今年度の「純米しぼりたて生原酒」、季節限定で発売を開始しました。

精米歩合:70%
アルコール分:18.2
日本酒度:+4
酸  度:1.8
アミノ酸:1.4

純米酒特有のふくよかな柔らかさと、新酒ならではの荒々しいフレッシュさとが絶妙な調和を見せています。
ちなみに活性炭ろ過はしていません。
今の時期なら鍋料理に合わせると、具材が肉でも魚でも、出汁の力強さとあいまって、お酒がどんどん進むこと請け負います。
お値段は4合びんが1260円、一升瓶が2520円です。

「生」って?

2008.01.15

酒造りが真っ盛りのこの時期の旬のお酒として、各蔵からしぼりたての生酒が発売されています。
ではこの「生酒」とはどういうお酒なのでしょう?
その名の通り、「生酒」とは一切加熱処理していないお酒のことです。
「生酒」の香りは、青竹のような、あるいは沢の流れのような、みずみずしい独特のものなので、慣れればすぐに分かります。

では「生酒」ではないお酒とは?
通常のお酒は、60~65℃以上で2度加熱(=「火入れ」といいます)を行います。
一度目はお酒をしぼったあと、二度目は瓶詰めする時です。
「火入れ」をする理由は2つ、ひとつは殺菌のため、もうひとつはお酒の中に残っている酵素を破壊するためです。
ひとつめの殺菌については、「火落ち菌」という、繁殖すると白濁して品質を著しく劣化させる菌を除去させる目的です。アルコール耐性を持つ菌なので、加熱による除去が必要なのです。
また、ふたつめの酵素の破壊については、酵素が残存していると清酒中での化学反応を促進させるので、それを防ぐのが目的です。
「火入れ」をしたあとは速やかに急冷します。
お酒の温度が高ければ高いほど各種の化学反応の速度も早まるため、変質や過熟を避けるためにはすぐに温度を下げなければならないのです。

ちなみに、通常2回行なわれる「火入れ」、これが1回だけだと呼び方が変わってきます。
しぼったあと「火入れ」をして貯蔵し、びん詰め時には「火入れ」を行なわないものを「生詰め」と呼びます。
秋に発売される「ひやおろし」は、一般的にこの「生詰め」状態で出荷されます。
一方、しぼったあと「火入れ」せず貯蔵し、ビン詰め時だけ「火入れ」を行なうものを「生貯蔵酒」といいます。
「生貯蔵酒」にすることで、常温での保存・流通が可能になります。
「生酒」の風味を半分残し、貯蔵時の品質の安定度も半分以上アップするといったところでしょうか。

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