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シャイン・ア・ライト

2008.12.27

仕事の合間を縫って、マーティン・スコセッシ監督「ザ・ローリング・ストーンズ シャイン・ア・ライト」を観ました。
観たくて観たくて仕方がなかった1本です。

マーティン・スコセッシ監督といえば、しばらく前に長野市の老舗の映画館で「1970年代のニューシネマ特集」という触れ込みで、一週間だけ、しかも夜1回のみ、突如「タクシードライバー」を上映していて、20年以上も前に何度も繰り返し観たあの頃の思い出に浸りながら、今回もやはり同じ感動に包まれたのでした。
映画館を出る際に、支配人の奥様とおぼしき方が見送って下さったので、「今になってこの作品をスクリーンで観ることができるとは思いませんでした。ありがとうございました」と思わずお礼を述べてしまいました。

閑話休題。
そのマーティン・スコセッシが監督する「シャイン・ア・ライト」、ザ・ローリング・ストーンズのライブを追ったドキュメント映画なのですが、観終わったあとストーンズのメンバーが数段魅力的で、そして百倍カッコよく見えてくる、極めて秀逸な1本でした。
ストーンズの魅力を自分なりに撮り切るには、何万人も入るスタジアムではなく小さなホールが望ましいと、あえて2000人弱のキャパしかないニューヨークのビーコンシアターを会場に選び、十数台のカメラを駆使して、スコセッシ監督はストーンズの魅力を2時間に渡って余す事なく撮り切っています。

冒頭、ライブ開始直前になっても曲目のリストが手元に届かず困惑するスタッフや監督を尻目に、あくまでもマイペースでオープニングを迎えようとするストーンズ。
そしてついにセットリストが監督に届き「1曲目は!?」と叫んだ瞬間に「ジャンピン・ジャック・フラッシュ」のあのイントロが奏でられるシーン、思わず背筋に電流が走ります。

そしてアンコールの「サティスファクション」が終わった瞬間、観ている我々観客もひとときの祭りから解放され、しかし観終ったあとの方が遥かに、観ている間よりもひときわ深い感動と余韻とに包まれている事に気が付くのです。
昔、淀川長治が、映画雑誌の質問コーナーで「私は映画を見たあとは、何時間もその映画のことばかり考えてしまい他のことが手につかないのですが、どうしたらいいでしょうか?」という質問に、「あなたはその数時間で大切な勉強をしているのです。その数時間こそが大事なのですよ」と答えていた事を思い出します。

ストーンズのライブ映画といえば、約25年前に公開されたハル・アシュビー監督「レッツ・スペンド・ザ・ナイト・トゥゲザー」が、あります。
私は当時、東京の丸の内ピカデリーで観たのですが、感激のあまり2回立て続けに観てしまった事を覚えています。
こちらの映画は何万人も収容する野外スタジアムと屋内アリーナでのライブを撮影しているのですが、今回スコセッシ監督はミック・ジャガーから出された「リオデジャネイロのビーチでのライブ」案を蹴ってあえてビーコンシアターに固執したのは、この映画の存在が頭にあったのかもしれません。

ちなみに、ストーンズが20年前に初来日を果たして以来、5回のツアーには毎度足を運んでいますが、やはり最初の「スティール・ホイールズ」ツアーで、場内が暗転してBGMで「コンティネンタル・ドリフト」が鳴り響く中、暗闇を割くように、キース・リチャーズのギターが「スタート・ミー・アップ」を奏でたあの一瞬の興奮は今でも忘れることができません。

今回の映画「シャイン・ア・ライト」は、そんなストーンズの魅力を余すことなく伝え、とことんまで酔わせてくれる傑作です。
メンバー全員が60歳を越えた今なお、これだけパワフルでセクシーなバンドに乾杯!