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「羊の木」

2018.03.14

山上たつひこ原作、いがらしみきお作画という、夢のようなコンビによる伝説の作品「羊の木」。

このたび映画化された影響もあるのでしょう。
どこの書店でも全く見当たらず、Amazonでさえ新品がなく高騰した中古しか見当たらなかった、その「羊の木」全5巻が、まさか近くの書店に平積みされているとは。
一瞬信じられず、しかし次の瞬間、感涙とともに一気買いしてしまいました。

山上たつひこといえば「がきデカ」ですが、その前作で、中学生の頃に貪(むさぼ)り読んだ「喜劇新思想体系」の衝撃に吹っ飛ばされた記憶があります。
そんな山上たつひこ、今はもっぱら小説家として活躍していますが。

そしていがらしみきおは何といっても「ぼのぼの」。
胸にキュンとくる作品もキャラクターも大好きですが、そんな愛くるしいイメージをかなぐり捨てて描かれ、映画化もされた「かむろば村へ」、これがまた凄い作品でした。

さて、「羊の木」は、11人の凶悪犯を極秘にひとつの市に移住させる国家ブロジェクトを託された地方の市長が、自身の立場と凶悪犯の更正との板ばさみに苦しみながら、次第に街や市民や家族までもが巻き込まれて変貌していくさまを描いたシリアスな物語ですが、映画版「羊の木」は、山上×いがらしのコンビだからこそ成し得た「狂気」や「日常と非日常の混沌」が今ひとつ描き切れていなかった気がします。

映画では内容も原作とはかなり違っていて、「羊の木」が映画化されると知った時の、あの胸の高鳴りに応える内容だったかといえば、原作に惚れ切っていただけに、正直、答えはノーでした。
評論家受けは結構良かったみたいですけど(特に錦戸亮の演技が絶賛されていました)。

ところで山上たつひこといえば、遅筆で知られる江口寿史が著書の中で、山上の原作をもらえた光栄に預かったにもかかわらず、一向に筆が進まず、最後は山上の逆鱗に触れて作画を断られる顛末を書いていたエピソードが、涙と笑いなしには読めませんでした。

それと学生時代、神保町の古本屋街で、捜し求めていた「中上健次全短編小説」をついに発見して、清水の舞台から飛び降りたつもりで買い求めたところ、その直後に、どこを探しても見つからなかった同書が再販された時のショックも思い出しました。
悩みましたが、どうしても古本ではなく新刊も欲しくて買い求めた本書は、今でも私の書架に並んでいます。