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図書館の片隅にて

2012.10.26

しばらく前に、所要で長野県内の某高校を初訪問しました。
少し時間に余裕があったので図書館をぜひ見てみたいと思い、行ってみることにしました。

授業中とあって生徒の姿はなく、館内は静寂が支配していました。
図書館の蒸せ返るような書物の匂いは昔も今も変わっていません。
そんな中、まず向かったのは日本文学全集のコーナーでした。
一体どんな作家の全集が並んでいるのか興味津々です。

書架の端からゆっくりと目を移していくと、私の目は一点に釘付けになりました。
そこには、戦後生まれの作家としては私が最も好きな2人、中上健次と開高健の全集が同じ棚に並んでいました。
ちなみに、その「中上健次全集 全15巻」は私の書架にも大切に収められています。

今の高校生もこの2人を読んでいる事が嬉しくて、思わず心躍らせながら中上健次の1冊を手に取ると、しかし本そのものはまるで新品のようにきれいなままです。
一番最後のページを開いて貸し出しの履歴を見てみたところ、何と借りた人はゼロ・・・それはどの中上健次の本も同じでした。
それよりもっと古くに出版された開高健全集は、それでもかろうじて1人が借りています。
という事は、これらの本は10年以上もの間、誰にも見向きもされずに、そこにただ置かれていただけなんですね。
何てもったいない・・・思わず心の中でそう呟いてしまいました。

でも高校生にとってみれば、図書館は本を借りる場所というよりは勉強をするスペースなのかもしれませんね。
私が高校生の時もそうでしたし、私自身、市立図書館の自習室で受験勉強に励んだ身ですから、あれこれ言う資格はありません。

でも大人になってみると、若い頃に得た知的財産の大きさって計り知れない事に気が付くんですよね。
そこに中上健次がある、そこに開高健がある、でも全く見向きもされていない、そんな事実がちょっと寂しく感じました。

何だか今日は偉そうな事を書いてすみません。